特報・古池嘉和さんの観光振興論〜その1〜


 『観光学への扉』で「9章 脱開発の時代と持続可能なコミュニティ」「10章 協働・連携としての観光」等を担当いただいた古池嘉和さんの新しい原稿を読んだ。
 もうすぐだ。
 この本で言いたいことは決まっている。
 地域経済において観光が果たすべき意義と役割を考えること。それは広い意味での産業興しであり、それに応えるのは広い意味での創造産業だということだ。
 だが、一体どんな書名とすべきかが悩ましい。企画時には『創造的ツーリズム(訪問産業)の地平』となっているが、通じそうにない。

 単純に『地方都市の観光振興〜交流と産業創造』としても良いのだが、それでは工夫がないという声も出てくるだろう。
 いっそ、『成功する観光まちづくり〜交流から産業創造へ〜』としてしまおうか。新しい考えを一発で伝えるのは難しい。


**湯布院
 本書では超有名で語り尽くされた感がある湯布院も紹介している。
 湯布院の観光まちづくりの成功要因は「社会関係資本の構築とビジネスが繋がって、地域内に消費の場をつくりあげたこと」にあるという。より具体的には「洗練された原材料と加工技術(=地域に受け継がれた文化的なもの)を、地域内に訪れる人びとに供給することで、徐々に需要が見合ってくる。その上で、定期的に開催されるバザールにより、さらに地域内において十分な需要を確保できるようになると、農林業は、生業として成り立つようになり、その結果として、豊かな緑を守ることができるようになる」。
 では、その社会関係資本とはなにか。もちろん、湯布院の人々の結びつき、繋がりなのだが、特に注目すべきは、「景観という可視化された文化資本と、長きにわたり継続されている、音楽祭・映画祭などの芸術活動の蓄積により、人々の間に蓄積された文化資本の力」に古池さんは注目している。
 そしてそれが単に精神的なつながりではなく、ビジネスを通じて地域内を循環する仕組みになっていることこそ、成功の秘訣、持続の秘密だと言う。
 これは創造都市論や流行りの農商工連携と通じる話であり、本書の基本となっている。

陶磁器産地(美濃焼、益子、常滑

 古池さんは商業活性化アドバイザーの経験もあり、経済の側面からまちづくりに関わって来られた。また地場産業とのお付き合いも長い。
 その経験を踏まえ本書で主に取り上げているのは美濃焼だ。
 ここは機械に依存した安価な製品の大量供給に走り、今、とても厳しい状況にある。また人里離れた印象の濃い他の産地と異なり、名古屋大都市圏に取り込まれ、やきものの町といったイメージは失われている。
 しかし、大都市圏のなかにあるということは、身近に多くの消費者がいるということだ。
 だから、陶磁器に関係する生産者や組合はもとより、産地で暮らす人びとや地元行政、試験研究機関、商店街、NPOなどの様々な人びととの繋がりのなかで、創造的なクラスターを生み出し、同時に、産地を訪れる来訪者を魅力的なマーケットにしていかなければならないと言う。


 一方、東京から2時間半から3時間の距離にある栃木県の益子は、産業観光地として既に成功しつつある。その特徴は製造販売一体の家内工業であること。だから小さな町でも多様な店舗を展開できるのだ。
 まさに交流型の産地だと言う。


 さらに常滑は、やきものの散歩道など景観づくりに成功し、路地裏にしゃれた店舗が増えているという。益子とことなり製造販売一体の観光地ではないが、従来からの生産機能と新たな消費機能が同居し、あたらなもの作りを目ざす人びとが混在しているという。
 消費の場としてだけ存在するのではなく、新たなもの作りやデザインの創造機能を備えた場として再生されている。それには、煙突や土管、狭あいな坂道といった歴史を感じさせる空間の力も寄与しているようだ。


続く



○関連セミナー
古池嘉和(2011.01.14、京都)
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1101koike/index.htm


古池嘉和氏インタビュー
http://www.gakugei-pub.jp/chosya/010koike/index.htm


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