『観光まちづくりとマーケティング』脱稿間近

いよいよ脱稿間近

 5月12日に紹介した『観光まちづくりとマーケティング』の第二次稿が上がってきた。
 本書は、1章で総論を書いて頂き、以下「観光地マーケティング」「観光地ブランディング」「観光地プロモーション」そして「MICE」と「ホスピタリティ」と展開している。


 観光振興に取り組んで、体験型プログラムをつくってみたが、お客さんが来ずに尻すぼみになってしまうという例もあると聞く。またせっかくお客さんが来ても、お金を落としていかず、期待はずれという話もある。
 それなりに誘客するにはどうするべきか。またせっかく来て頂いた方に買って頂ける地場産物や地域ブランド品をどうしたら作れるのか。
 本書は、HOW TO本ではないが、そういう悩みを抱えた地域が自ら考えて頂く手助けになることを目ざしている。


 なお、マーケティングというと町を商品のように扱われるようでイヤだという人も多い。観光も町を商品のように扱うところがあると、まちづくりと微妙な緊張関係にある。
 その点について、単純に言えば、住んで良いところは、訪れても良いところじゃないか。地域を誇りに思うことは、地域の力を強めるし、それが観光客に魅力的に見えるなら、一層良いじゃないかという姿勢で本書は書かれている。とりわけ、「観光地のホスピタリティ」では、その点、注意深く書いておられる。
 だから、微妙な緊張関係をほぐす手がかりになるのではと期待している。

マーケティング論は役立つか?

 ところでマーケティング論とかブランディング論は役立つのだろうか。
 経営書は、総じていい加減というか、成功例を適当に解釈して見せているだけじゃないかと言う人もいるだろう。
 僕は観光業界人でも、地域振興の担当者でもないので、正直、分からない。
 というか、観光の本なのだが、マーケティングの本を読むと、どうしても「自分たちの本をどう売るのか」「役立つ知恵はないか」という雑念で見てしまう。
 今回に限らず、何冊も読んだが、まず即役立つような話は書いていない。だが、現状分析の枠組みなど、考える手がかりは見つけることができる。

 たとえば、建築の本が売れない、まちづくりの本が売れないとなると、すぐ他分野はもっと良い目をしているに違いないと思えてくる。それじゃこの際、他分野に進出だ!と言うときに、立ち止まって考えるには本書の2章「観光地のマーケティング」で山田雄一さんが紹介するSWOT分析やフォース分析は確かに有益だと思った。


 ただ、僕たちの強み、弱みとは何か? 機会、脅威とは何か?に答はない。
 常に意識し考え、やろうとしていることをチェックするために役立てる、というところだろう。

誰に何を訴えるか

 たとえば山田さんの2章では、観光地の力量を考えると、お客さんの旅に出たいという気持ちをかき立て、旅へプッシュすることは困難で、普通は旅に出たいという人に選んで貰えるようにプルするのが現実的と書いてある。
 それは、そうだろう。当たり前だ。
 だが、自身を振り返ると、このあたり前から外れていることがある。関心のない読者も、きっとの関心をもってくれると幻想をもってしまう。


 一方、伊良皆啓さんの3章「観光地プロモーション」でも似た話題が取り上げられている。

 ここでは、消費者へのプロモーションと、旅行会社などへのプロモーションとどちらが有効かが論じられている。
 個人少数旅行への変化や流通の多様化などから、いくら旅行会社に働きかけ、パック旅行を作ってもらい、パンフを店頭に置いてもらっても、消費者がその地に行きたいという気にならなければ、難しい。だから消費者への働きかけが大事だと書かれている。


 本の場合はどうだろうか。
 まず共通点は、旅行の場合も本の場合も、零細弱小には消費者への直接のアプローチは容易ではないということだ。マス媒体はまず使えない。結局、関心をもってアプローチしてきた人といかに繋がるか、せめてその後も情報を受け取って貰えるようにするかしかない。
 その点、顧客名簿に基づくDMやメーリングリストは、貴重な媒体となる。


 しかし、旅行は行ってみなければ本物に接することはできないが、本は、本屋さんで本物が見られる。だから本の場合は観光以上に流通ルート(書店)への営業は欠かせない。
 一方、観光まちづくりでは、零細弱小の村が特定の地域に絞ってマス媒体を一気につかった例や、東京でのイベントに参加し1000人もファンを獲得した例が紹介されている。これは読者が薄く広く散らばっている僕らの本では難しい。

メッセージのあり方

 また伊良皆さんがプロモーションにおけるメッセージのあり方として、説明、説得、リマインダー(記憶保持)を示し、認知度が低い場合は説明型が良いとされている点は興味深い。


 本の場合、一冊一冊が初デビューだ。また受験書などの一部をのぞけば、基本的には競争相手はいない。少なくとも競争相手がいないオリジナリティの高いものを作ろうと頑張っている。とすれば、ともかくどんな本が出たかを伝える「説明型」で、情緒や倫理に訴えるのではなく、事実を伝えれば良いことになる。
 仮に競合相手がいたとすれば、競合相手より優れていることを「説得」することになるはずだ。


 だが、実際に作っていると、ついつい忘れてしまい、情緒に走って「どんな本が出たか」を伝えることを忘れてしまう。あげく魅力的だが分野も対象も曖昧な書名にしてしまったり、書名がはっきり読めないカバーデザインが素敵だ、と思えてくるのだから恐ろしい。
 そういうときは、マーケティングの基本原則を復唱しなければ・・・。

どんな媒体を使うか

 またインターネットによる広報も問題だ。
 少しでも宣伝になればと、こうやってブログをに書いても、果たして効果があるのか。世間は「紙よりも電子」と騒いでいるが、観光関係の統計をみると、やはりガイドブックなど定番のメディアが強い。


 伊良皆さんが本書に載せられているある調査結果でも、ガイドブックでその観光地を知った人は4割近いのに、ホームページや携帯サイトは10%にも満たない。
 そして大きいのは友人・知人のすすめで、これは2割を超える。他の資料ではこれが決定的としているものもあった。いまやインターネット等で一方的に発信しているだけでは、たいした力にはならないのかもしれない。


 では口コミをどうすれば広められるか。
 観光の場合、これを「紹介意向」と呼んで「再来訪意向」とともに重視しているが、山田さんは、これらは個々のサービスの品質や価値だけではなく、その地域に対するイメージや人との繋がり、地域への信頼感、思い入れなど多岐にわたる項目から構成されている総合満足度との関係が深いという。だから「地域としての取り組みが大切」と本書では続くのだが、本ではどう考えれば良いのだろう。


 かつては、優れた内容の本なら、きっと自然に話題になると思っていたし、事実、僕たちの学生時代では喫茶店で読んだ本の話をすることも珍しくはなかった。
 今は、そうではないらしい。本のことが話題になる機会はものすごく減っているという。それを乗り越えて話題作りをするには、上記の人との繋がり、信頼度、思い入れが鍵だとは分るが、では著者や出版社と読者との繋がり、信頼感、思い入れをどうすれば持って貰えるかだろう。
 これは難しい。試行錯誤を重ねるしかないのだろう。


 未定稿なので内容にあまり立ち入ってご紹介できないのは残念。
 十代田朗さんの1章と終章はもちろん、太田正隆さんのMICEの章、とくに地域の身の丈にあった、しかし地域の総合力を発揮するMICEへの取り組み方、そして丹治朋子さんのホスピタリティの章も力作です。
 ご期待ください。



○本ができたらお知らせします。
 ご希望の方は「観光まちづくりとマーケティング刊行情報希望」とお書きいただき、前田裕資(maeda@mbox.kyoto-inet.or.jp)にメールください。

  • 本が出来ています


十代田朗、山田雄一、内田純一、伊良皆啓、太田正隆、丹治朋子著『観光まちづくりのマーケティング