シビックプライド会議&三浦展『愛国消費』


 10月9日に東京でシビックプライド会議というものがあって、誘われてその実況をユーストリームで見た。

シビックプライド

 シビックプライド会議は2008年に『シビックプライド』という本を出している。A5、224ページ、オールカラーで1900円+税という超お得なお値段。まちづくり系専門書では考えられない本のつくり、価格付けだが、企画制作に読売広告社都市生活研究所が入って宣伝会議から出ているから、広告分野の本としての位置づけなのだろう。


 「I amsterdam」や「BARCELONA BATEGA」(あなた(=市民)がドキドキすると、私も(=バルセロナ)ドキドキする)が冒頭の2章で紹介されており、都市プロモーションや創造都市論の流れにのって当時かなり話題になり売れていた。


 そのシビックプライドの編者であるシビックプライド研究会が開いたのが第1回シビックプライド会議だ。


 その基調講演はCity IDディレクターのマイク・ローリンソンさんの「イギリスにおけるシビックプライドを醸成する空間と情報のデザイン」と『下流社会』の著者 、三浦展さんの「日本における地域社会の崩壊とシビックプライド醸成の必要性」だった。


 僕は同時通訳で聞く海外の人のお話は苦手だ。ほとんど分からないことが多い。今回もそうだった。そのうえユーストリームパワポが良く見えなかったので、間違った印象かもしれないが、王道の都市デザインに加えてサインや色彩のトータルコーディネーションを強調しているという感じだった。


 本にのっているブラッドフォードという町の将来像をみると、CGの都市というか、とても人が住む街には思えない。年寄りには厳しそうな町だが、かつて老大国と言われたイギリスに、こういう人工的な町を受け入れる若さがあるのが驚きだ。

三浦展さんの『愛国消費』

 もうひとつの基調講演、三浦さんのお話はとても面白かったが、「日本における地域社会の崩壊とシビックプライド醸成の必要性」というタイトルとの関連は、いまひとつ分からなかった。
 そこで紹介された最近の本のなかで『愛国消費』を買って読んでみた。


 この本の主張は、単純化して言うと、「日本が好きだ」という人が増えていること、そういう人たちは日本のもの、とくに日本色に彩られたものが好きだということ、そして、それはそれは「家族が大切」と思う人が増えていることと軌を一にしており、環境志向やシンプル好きとも重なるということだと思う。


 そういう色眼鏡で世の中を見てみると頷けることがあるし、読んでいた面白いのだが、きちんと裏付けがある話なのかどうか、今ひとつ分からない点がつらい。


 それはともかく、それがシビックプライドにどう結びつくのか、基調講演では踏み込まれていなかった。
 「日本が好き」という消費性向がシビックプライドに結びつくには、日本という抽象的な話ではなく、ある特定の地域への拘りがあるかどうかが問題だし、それも、東京にいて○○は銚子産が最高とか、××はやっぱり京都物だよね、という形での地域への拘りではなく、自分が住んでいる、あるいは関わっている地域への拘りがあるかどうかが問題だと思う。


 唯一、関連する話として、『愛国消費』の図表3−15、16、17にある、日本への好意度別、住んでいる地域が好きか、10年後も住みたいか、どこに住みたいか、というというものがある。


 これを見ると、三浦さんが指摘するように、「日本が好きでも嫌いでもない、嫌い」という人は、今住んでいる所があまり好きではなく、将来も住みたくないという傾向があるように見える。
 将来住みたい所としては日本への好意度に関係なく東京の郊外や田園郊外が一押しだが、「日本が好きでも嫌いでもない、嫌いという人」は都心部に住みたい人が多い、「日本が好きな人」は東京の伝統的な下町が好きと分析している。だが、前者は数パーセントの差しかない。


 逆に「その他の地方」に住みたいという人は「日本が好きでも嫌いでもない、嫌いという人」に圧倒的に多いが言及がない。


 ただ地方都市の郊外の住宅地や中心部を好むのは「日本が好きな人」が多いので、これだけから夢想すると、「日本が好きでも嫌いでもない、嫌い」という人は、都心の超高層を好むようなグローバル・バリバリの人と、そういう東京に疲れて、かなりひなびた地方を好む人の二通りがいるのかもしれない。※


 出させていただいている本で、地域の自立とか、誇りとかを強調しているだけに、それが見込みのある道なのだと納得できるデータがあれば嬉しいのだが、三浦さんがいう、昨今の日本好きの隆盛がシビックプライドを盛り上げる背景となりうるのかどうか、分からなかった。


※なお、この表には「日本が好き」「まあ好き」「日本が好きでも嫌いでもない、嫌い」のほか、「その他の地方」「その他」という他の図表にはない項目があり、結構、特徴的な値を示しているけれども、これが何者なのか、なぜ無視されているのかの説明はない。

シビックプライドと愛郷心(郷土愛)

 会議のなかで「シビックプライドと愛郷心は違う」と言われていたが、僕にはまだ良く分からない。
 思いつくのは、郷土愛は、生まれ育ったところへの愛情だけど、シビックプライドは今、住んでいるところへの誇りらしいということ。
 たとえば英語の辞書には civic とは officialy connected with a town or city とあり、a sense of civic pride (=pride that people feel for their town or city)とあった。
 たいして、郷土愛と引くと「生まれ故郷に対する愛情」とある(sharp電子辞書)。


 確かに今、求められているのは住んでいる所、働いている所への愛情だろう。
 そういう意味では郷土愛といった言葉では表しきれないことは分かるのだが、シビックプライドなんてカタカナ語しかないのだろうか。なんか、良い言葉は無いのだろうか?


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愛国消費 欲しいのは日本文化と日本への誇り