椎川忍『緑の分権改革〜あるものを生かす地域力創造』

 椎川忍さんの『緑の分権改革(仮称)』の校正を読み終えた。


 緑の分権改革というのは、民主党が政権を取ったあと、総務大臣になった原口一博さんが打ち上げた構想で、クリーンエネルギーとIT、食料、歴史文化資産等の地域資源、地域の人材を最大限活用しながら地域の経済的な自立をはかろうという「もう一つの成長戦略」だと当時聞いた記憶がある。


 なかなか良いことを言うじゃないかと思ったが、その後、マスコミで取り上げられることは少なかった。補助金をつぎ込んでドーンと立派な施設をつくる訳ではないので、誉めるにも、貶すにも、絵にならない政策なんだろう。


 しかし、地味ながら着々と進められてきているようだ。
 また、単なる成長戦略というわけではなく価値観の転換にも対応しようという姿勢があることが分かった。というか、成長戦略というのも違うような気もする。いかに自立と自己実現をはかることで、そこそこの満足、幸福を得ていくかという持続可能性追求の戦略という感じだ。


 なぜ、中央政府が地方の自立を積極的に言うのだろうか。


 一つには財政が傷んでいることがある。
 悪く言えば、もう無い袖は振れないと真っ先に切り捨てるという面もあるかもしれない。


 もう一つは、成長自体の意味が問われているということだ。
 マスコミでは、政権に成長戦略があるかどうか、といった問われ方が目に付くが、政府の目的は成長ではない。
 目的は国民の幸福の追求だろう。かつては幸福=成長という図式だったが、今、世界的にこの図式が壊れている。


 たとえば職があることが大切だという調査結果もあるし、愛があることという調査結果もある。本書でも金銭的な豊かさはある程度は必要だが、年収があるラインを超えるとお金は重要な要素ではないとされ、たとえば1人当たり実質GDPが300万円を超えたあたりから、GDPはあがっても生活満足度がどんどん下がってきた昨今の様子を示した平成20年版国民生活白書の図が紹介されている。


 では、どうすれば良いのか?。


 本書では書かれていないが、同じ果実を手にするにしても、中央政府に命令されたとおりやって手に入れるよりも、自ら考え自らの意志で取り組んで手に入れるほうが楽しいということじゃないかと思う。それは自治体という単位でみても、住民1人1人で考えても言えるのではないか。


 だから、中央政府のお金を当てにせず、また地域のことは自ら決められるように、社会・経済の分権改革=緑の分権改革が必要だというわけだ。


 国の政策でありながら、国に頼るな!という『緑の分権改革』、ちょっと面白うそうじゃないか。
 乞うご期待。

○『緑の分権改革〜あるものを生かす地域力創造』予約ページ
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-2524-8.htm

(おわり)