紫野庵〜身体が不自由でもリフトを使わずに入浴できる


 昨日は夕方から大徳寺の東側にある紫野庵に間瀬樹省さん・青山幸広さんを訪ねた。


 青山さんは介護業界では著名な方で、リフトなどの機械に頼らず、お年寄りに入浴してもらう方法や、オムツに頼らない排泄介護など、身体に優しい介護術の主唱者だ。


 この紫野庵は築100年前後の2軒の町家を改装してつくられた介護の研修施設。今は「お年寄りを元気にする介護」、「力を使わない移乗&入浴実技編」というセミナーを毎週開催されている。前者では寝返り、起き上がり、立ち上がり、移乗などの基礎を学び、後者ではさまざまな移乗技術を学んだあと、入浴介助に必要な移乗技術、浴室でのお湯入り入浴実技を学ぶ。


 お訪ねしたときは「力を使わない移乗&入浴実技編」の最後のステップ、入浴介助が始まる直前だった。
 若い人たち、それも男性が多く参加され、熱心に学ばれていた。


 介護される方、一人一人に合わせた細かい気配りが必要な大変な仕事だという。
 こういう人たちが、人が羨むような給料を貰える社会に早くならないものか、といつも思う。



 介護点数におわれ、合理化、効率化を追い求める介護現場では、まるで『老人Z』の世界だ。
 知っているかな? 近未来SFアニメの決定版。厚生省が開発した老人介護機械・自己増殖機能をもつ第6世代コンピュータ「Z001号機」が、寝たきり老人と一体化して暴走し、老人と亡くなった妻との懐かしの原風景を求めて鎌倉に向かう。大活躍する美少女ボランティアやパソコンお宅の老人たち。

 原作・脚本・メカデザインが大友克洋、キャラクターデザイン原案が江口寿史
 宮崎アニメとは違った世界がここにはある。是非、見て欲しい。



 ちょっち暴走してしまった。閑話休題
 ともあれ、写真を解説しよう。


 まずは外観。普通の町家だ。
 そしてセミナー室。琉球畳みが敷かれ、上は吹き抜けで梁がむき出しの、ちょっと寒そうな、しかし豊かな空間になっている。この季節なら、文句なしに気分が良い。端にはペレットストーブが置いてあった。


 次は食堂と打ち合わせコーナー(奥はセミナー室)。



  



 そして、肝心のお風呂だ。
 床は吸水性に優れた十和田石。これなら水に濡れても滑りにくいと言う。
 浴槽と床が切れているが、これは床を掘り炬燵のように掘り込んで防水し、そこに浴槽を載せているためだ。だから浴槽を外に取り出し、乾かすことができる。

 お風呂本体は青森のヒバ。ヒノキチオールという抗菌性の物質を多く含み、腐りにくく、お肌にも良いという。ヒノキチオールは台湾のヒノキから発見されたそうだが、残念なことに日本のヒノキにはほとんど含まれていない。ヒバが良いのだが、国有林を伐採したものしかなく、品薄になりつつあり、価格が少しずつ上がっているそうだ。

 そのお風呂の縁は握りやすく工夫されており、また介護の人が座っても痛くない程度の幅になっている。移乗用の椅子はお風呂の縁にピッタリあっている。


 お風呂は本来は大中小の3種類が必要だという。
 小さいのは普通のサイズのお年寄りがちょうど具合良く入れるサイズ。お年寄りは浮きやすいので、大きめのお風呂だと身体が安定せず不安になるそうだ。だから洋式の寝そべるような感じのお風呂は一番嫌われるという。
 中は、身体の大きな人向け。
 そして大は、身体が硬直してしまって膝や肘が曲がらない人向け。

 介護施設であれば、この3種類を揃えておくと、ほとんどの場合、リフト等の機械に頼らずに入浴させてあげることができる。
 もちろん、そのためには介護術の修得が必要だが、神業のような特殊なものではない。

 ハートマークの道具は身体の向きを変えるための補助具だ。


 青山さん自身の手によるセミナー施設というだけあって、細部にまで工夫が詰め込まれている。また建具や電灯なども青山さん自身が一つ一つアンティックを買ってきたという。そういうことが好きでたまらない人という感じだった。


 さて、機械に頼らない入浴介助は普及しているのだろうか。
 もちろん改装にはお金がかかることも問題だ。
 しかし、機械式のように10年ごとに設備の大更新が必要になるわけではない。お湯の量も少なくて済むし、なにより、老人が元気になるので、介護士さんもやりがいを感じ定着率が良いという。もちろん老人自身にも家族にも喜ばれている。


 しかし、一度定着してしまった機械式を改めるのは容易ではないという。厚労省は推奨しているそうだが、都道府県などの現場レベルでは全く浸透していない。まだ各地の熱心な施設が取り組みはじめた段階だ。


 一方、青山さんの介護術の本はたくさん出ている。
 果たして建築設計業界に需要はあるのだろうか。
 将来はお母さんをちゃんとしたお風呂に入れてあげたいと自宅を改修する人も出てくることになれば、リフォーム業界も大いに潤うし、本も連れだって売れるだろうが、だいぶ先の話だろう。
 果てさて、どうしたら良いものか。
 一応の方向性は間瀬さんとの話し合いのなかで見えてきたのだが、それはヒミツ!。


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