原科幸彦『環境アセス法案の動向』(2)

ミニ・アセスの試行

 東京工業大学すずかけ台キャンパスに高層建築棟を建設する際に、横浜市からの環境配慮への要望に応えるためと、地元住民への説明のために、自主的にミニアセスメントを行った。
 詳細は下記にあるが、3ヶ月間、500万円でできたという。40億の事業なので、0.1%だ。
http://www.sisetu.titech.ac.jp/pfi/ea/ea_top.html

 費用削減のポイントは何をどう検討すべきかを決めるスコーピングを丁寧にやって評価項目を減らすことだという。
 市街化調整区域だが、隣にはビルが既に建っており、そんなに影響がないことはすぐに分かった。追加調査が必要になったのは騒音ぐらいだった。
 あと、日影と電波障害、それに風害に絞った。大きかったのは風害の予測を風洞実験をせずにできたことだ。
 どうしても分からないことは、将来問題がおきたら対応しますと約束することで、安心してもらえた、そうだ。


 なお忙しすぎて対応できなかったが、個人の3階建て程度の住宅だが、心配なのでミニアセスをしたいという申し込みもあったという。


 僕のマンションは住民が建設組合をつくって建てるコーポラティブ方式だが、建設の際に周辺の方々から随分反対された。なかには、環境アセスメントをやったのかという問いもあった。「いや、していません。そんなことこんな小さな建物でやるもんじゃありません」と答えてしまったが、ミニアセスをすることが話し合いの進展に繋がるなら、予めやっておけば良かった。


 しかし、動植物や水脈への影響が、周辺の方々の関心事であったかどうかは疑問だ。
 日影はしっかり計算し、また分かりやすく説明していたが、物理的圧迫感、心理的異和感とともに、イヤだと思えばイヤなものだ。

国際協力機構(JICA)の環境アセスメント

 意外なことに日本のODAが改革され、世界に誇れる仕組みを備えたという点を紹介しておこう。


 JICAは今、かつてのODAのほとんどを統合し、いまや102億ドル(2008年)もの援助資金を扱っているそうだ。あの世界銀行でも196億ドルで、特に円高の昨今はJICAの存在感はとてつもなく大きくなっているという。


 そこで世界の模範になることをめざし、環境社会配慮をしっかりやることになり、2年間の議論をへて、新ガイドラインがこの7月から動き出した。
 そこでは、一貫した環境配慮、情報公開の推進、住民協議の徹底がうたわれ、また環境と社会の多様な側面を評価するアセスメントがきちんと実施されるという。さらに社会影響対策が強化され、積極的な戦略アセスも行われる。


 新ガイドラインでは早期からの異議申し立ても可能となり、それらを含めて判断の透明性を確保するために、審査諮問機関として「環境配慮助言委員会」が設けられている。


 事業や計画の影響評価システムとしては、現時点では100点満点にちかいものが出来たそうだ。
 原科先生自身も繰り返して強調されているが、それだけのことができる日本が、なぜ、国内ではやらないのだろうか。

国際影響評価学会の倫理綱領

 原科さんが前会長を務められた国際影響評価学会(IAIA)には倫理綱領がある。
 それには、「あらかじめ決まった結論のために、事実をゆがめることを求められたら拒否する」と書かれている。
 当たり前の話だが、実は結構難しい。圧力があるのだそうだ。
 実際、日本では原子力発電所のデータ改ざんが1万件もあったという。

 これを例えば建築学会の倫理綱領・行動規範と比べると、その具体性が際だっている。
 「深い知識と高い判断力をもって、社会生活の安全と人々の生活価値を高めるための努力を惜しまない」など、美しい言葉が並べた建築学会と、目の前にある問題を具体的に書き込んだIAIAと、どちらを信用するか、自明だろう。

(おわり)

(写真は京の七夕・友禅のオブジェ)


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 いずれも版を重ねている羨ましい本。ただ、なぜ版を重ねられているかというと、世の中が進歩しないから古くならないからだ、と言われていた。


・原科幸彦『環境アセスメント (放送大学教材)


・原科幸彦『環境計画・政策研究の展開―持続可能な社会づくりへの合意形成