『ドンジョバンニ〜天才劇作家とモーツァルトの出会い』

ダポンテがドンジョバンニを書き上げるまで

 6月のとある日、久しぶりに京都シネマに映画を見に行った。
 モーツァルトと組んでイタリアオペラ三部作「フィガロの結婚」「コジ・ファン・トゥッテ」「ドンジョバンニ」を生んだ劇作家ロレンツォ・ダ・ポンテに焦点を当て、彼の背徳と愛の遍歴とオペラ・ドンジョバンニ誕生をだぶらせた映画だ。
 監督はカルロス・サウラ。フラメンコとカルメンをだぶらせた「カルメン(83)」はビデオ屋さんによく置いてあった。


 できは、まあまあ。前半は眠気との闘いが大変だった。音楽と違って映画は眠ると損をした気分になってしまうからだ。
 音は良かった。
 だが、物語は「何だ、これは」という感じ。ダポンテは女遍歴を重ねたけど、清純な乙女アンネッタと出会い愛に目覚める。そして自らの背徳をドンジョバンニに込め、ドンジョバンニを地獄に突き落とすことで禊ぎをし、目出度くゴールインというわけだ。こう書くと改めてフザケンナ!と言いたくなる。


 実際のダポンテは皇帝ヨーゼフ2世の死後、ウィーンを追われるようにして去り、向かったトリエステでイギリス人の商人の娘ナンシーと恋に落ち結婚しているので、アンネッタが仮に実在してもゴールインは出来なかった訳だ。※
 映画の最後に1838年アメリカで89歳で亡くなったと紹介されているが、どうもイギリスで劇場関係者に騙されて借金取りから逃げたようだ。妻のナンシーは1832年に亡くなったという。添い遂げた訳だ。


 家に帰ったらちょうど『アマデウス』をやっていた。
 やっぱり映像も音楽の選び方もこちらのほうが何枚か上手だと思う。

京都シネマとは


 平日の夕方5時からだったためか、お客さんは閑散としていた。
 京都シネマ四条烏丸にある3スクリーンのミニシアターだ。
 その1年前、2003年に京都朝日シネマが閉館した。業績は安定していたにもかかわらず外資系の運営会社ヘラルドエンタープライズの方針で撤退・閉館になってしまったのだ。


 その支配人だった神谷雅子さんは上映会を続けながら常設のアートシアターの開設を模索していた。そこである人が、旧丸紅ビルの再利用(リノベーション)を計画していたケイアイ興産(稲森豊実社長)に繋いでくれたという。
 アート系映画館にケイアイ興産がOKを出した決め手は、朝日シネマ存続を望む署名だったという。そうしてCOCON KARASUMA(古今烏丸)は、ミニシアターのある商業・業務ビルとして再生され、大成功をおさめた(写真※)。
 その前後の経緯は神谷雅子著『映画館ほど素敵な商売はない』(かもがわ出版)に詳しい。


 音響エンジニアリングチームの丁寧な仕事ぶりが実に見事だ。
 今日の音の良さも、その仕事の賜だろう。
 たまたま京都出身の方が担当してくれたということだが、「この偶然こそ、繰り返しになるが、京都でよい映画館ができた原動力になったのだ」と神谷さんは言う。それが都市の力であり、都市の創造力というものだろう。

ミニシアターの苦境

 帰り際にロビーで神谷さんと若い担当者が、記者らしき人の取材を受けていた。
 最近、若い人の映画離れが進んでいて、というか、何にも深い興味を持たなくなって、といった話をしているようだった。
 一時期と比べるとシネコンやテレビとのタイアップのおかげで邦画が元気だという話もある。音楽と比べると、ユーチューブによる不法な無料化の影響も小さいと聞く。もともとテレビという無料の媒体があり、ビデオやDVDと戦ってきたのだから、質の悪いユーチューブの映像などに今さら怯えることはないという。
 しかし、アート系は厳しい。80年代のアート系の隆盛がウソのように、お客さんが消えてしまっている。その話は5月6日に紹介した『映画館のつくり方』にも書いてあった。


 僕などもブログなど書いているが、ブログやツィッターの情報と、本や映画に込められている情報には、大きな差があると思う。著者がどんなに苦労しているか、そばで見ていたら良く分かる。それには本は一度出てしまうと、そうそう変えられないということも大きい。
 インターネット等の便利さも良いし、対極の生の良さも当然だ。しかし、紙やフィルムに固定される複製文化も価値がある。それが電子であっても構わないが、固定されるという点は捨てたくない。なんとか融通無碍に移り変わるインターネット等の移ろいの文化に打ち勝つ方法を探し出さねば、と思う。


※写真)
COCON KARASUMA外観。なお改修設計は隈研吾さん。


※参考資料)
About Lorenzo da Ponte
http://homepage3.nifty.com/classic-air/feuture/fueture_19.html


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