『観光まちづくりとマーケティング』


 出版準備中の『観光まちづくりとマーケティング』の草稿が揃ってきた。
 編者は十代田朗さん(東京工業大学大学院情報理工学研究科准教授)。ほかにJTBFの山田雄一さん、『観光の地域ブランディング―交流によるまちづくりのしくみ』の共著者の内田純一さん、コンベンションやMICEの実務家・太田正隆さんなどにも加わって頂いて、総勢6名の予定だ。
 狙いは、「観光地を市場にいかに売り込むか」。もちろん「売れれば良い」ということではない。むしろ地域力を高めていく正の循環を創り出す観光マーケティングのあり方を明らかにしようというものだ。どこまで書けているか。楽しみだ。



 ところで、観光マーケティングというと、今までは旅行業などお客さんを送り出す側からの話だった。だから、観光とは何かと迷うこともあまりなかったようだ。単純な話、JTB等の仕事になりうるものが観光だと考えれば良い。実際、観光学でも「宿泊」をともなうかどうかで観光とレクリエーションを分けている人もいる。旅行業や宿泊業、運輸業から見た観光ならそれで良いのだろう。
 しかし、地域からみると話はややこしい。
 たとえば観光施設にとって、遠くから来てくれた人も、近くから来てくれた人も、入場料を払ってくれれば、同じお客さんだ。東京ディズニーランドだって、日帰りの東京圏からのお客さんが少なくない。なのに、宿泊を伴うかどうかで、分けるのは業界の勝手、学界の勝手で、ユーザー視点とはとても言えない。
 土産だってそうだ。昔なら観光土産などを買う地元の人はいなかっただろうが、今は京都なら漬け物が一番の土産だ。これは地元の市民も買う。
 いや、地域外からお金を稼ぐのが観光の役割だから、地域外からの入り込み客だけを考えるべきだと言う人もいるだろう。
 だが、これも可笑しい。
 地域にとっては輸出を増やすのと輸入を減らすのは同じことだ。初期のビジットジャパンキャンペーンで、外国人観光客を267万人増やし、日本人海外旅行客を247万人増やそうという目標を掲げていたが、これでは差し引き20万人分の増加にしかならない。航空会社や旅行会社は儲かり、見かけのGDPは増えるが、CO2をまき散らしたあげく、国内に残るお金はわずかだ。
 同様に京都の人が大阪や東京に出て豪華な食事を楽しむぐらいなら、地域としては地元で食事をしてもらいたい。いわゆる地域内経済循環って奴で、イギリスではこれを「漏れを防げ!」という地域政策のスローガンにしているぐらいだ。
 せっかく東京の人に地域に来てもらって、もてなして、お金を稼いでも、稼いだお金を東京見物に使ってしまっては何にもならない。
 もちろん、稼いだお金で「東京の、世界の一流の音楽を楽しめるのは幸せ」ということもある。観光関係の酒席で、たまたま一緒になった経済系の先生が、コンセルトフェボーを聞くためだけにアムステルダムまで行くのが自慢という人がいた。もちろん、蓼食う虫も好きずきで良いのだが、そんなお金があったら、地元のオケとか、若手音楽家を育てる楽しみを味わっても良いのではないか。そうすれば、確実に自分だけの楽しみが持て、地域内でお金が回る。
 だから地域の視点から考えるなら、地域の人に地域で楽しんで貰うことも大事だ。
 反対に、コンセルトフェボーを聞きに行ったら、回りは日本人や中国人、アメリカ人ばかりだったらどうだろう。がっかりするんじゃないかと思う。地元の人が育て楽しんでいないものなんて、いまは魅力がない。外ばかりに目を向けてマーケティングしていては、ダメなんじゃないかと思う。
 本題からずいぶん離れてしまった。
『観光まちづくりとマーケティング』の主題は外からいかに誘客するかだし、このような問題のとらえ方はしていないが、「地域力を高めていく正の循環」というところに、通底するところがあるはず。期待していただきたい。
 


○本ができたらお知らせします。
 「観光まちづくりとマーケティング刊行情報希望」とお書きいただき、maeda@mbox.kyoto-inet.or.jpにメールください。

  • 本が出来ています


十代田朗、山田雄一、内田純一、伊良皆啓、太田正隆、丹治朋子著『観光まちづくりのマーケティング


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