『里山ビジネス』

 玉村豊男さんの『里山ビジネス』(集英社新書)を読んだ。
 里山では「こんなビジネスもある、あんなのもある」という本だと期待して買ってしまったが、実際は、都会から移り住んでヴィラデストというレストランを始めた人の話だった。(説明にもそうありました。読まない私が悪い。)
 軽井沢から車で1時間もかかるお店なのに、年間何万人も訪れるようになっているという。なぜ成功できたのか。ビジネスの計算に右往左往せず、やりたいことをしっかりとやり抜いたからだと書かれている。
 僕には生活観光について書かれていたことが面白かった。
 若い頃にツアーのコンダクターをされていたとき、日本ではお寺に観光にいったことすらない人が、教会ばかり見せられて、バチカンノートルダムも区別がつかくなってしまうこと。そんな人が自由時間にホテルの回りを歩いていたら、洗濯屋さんを見つけ、身振り手振りですっかり話し込んでしまったと嬉しそうに話してくれたこと。その人はイタリア語ができるわけではなく、クリーニング店を営んでいたので、面白いように意思が通じたそうだ。
 やはり普段関心がないことに、旅行にいったら突然関心が持てるわけがない。最初は珍しい物をみたうれしさはあるだろうが、すぐにつまらなくなる。
 一方、たとえ世界遺産はなくても、生き生きとした本物の生活があれば、それだけで観光は成り立つ。第一次産業の生産地は、そこに来てくれさえすれば、魅力的な観光地に変身できる。
 学者が「生活観光」というと、住民を見せ物にするのか、という反発を覚えることもあるのだが、こういうふうに書かれると、素直に素敵に思える。
 ところで、この本を読んでいたら、妻が「珍しいもの読んでいるね」とすり寄ってきた。そして田園の快楽―ヴィラデストの12ヵ月を見せてくれた。「仕事や。だいち車がないと行けへん」と答えておいた。