久繁哲之介『地域再生の罠』に反論する(2)ぱてぃお大門は失敗か

ぱてぃお大門に閑古鳥?

 最初に叩かれている宇都宮。次が松江の天神商店街。幸か不幸か、僕の本で紹介したした記憶はない。福島、岐阜も記憶にないが、長野と富山は、何度か紹介した。


まず、ぱてぃお大門。
09年2月12日の12時から30分間、ぱてぉい大門を訪れた久繁さんは、来訪者が20人しかいなかった、そのほとんどは飲食店を訪れていないと言う。そして市民から、ぱてぃお(中庭)の散策者はそこそこいるが、ランチ客は全店舗で1グループという話もあると聞いたとして、中小企業庁の「がんばる商店街77選」の記述と現実の隔たりの大きさを強調している(p88〜90)。

元々の狙いは?

 僕が関わらせていただいた本ではどうか?
 たとえば『中心市街地活性化・三法改正とまちづくり』では、実際にぱてぃお大門の立ち上げに携わった服部年明さんが書いてくださっている。
 まず押さえておかねばならないのは、もともとは駐車場に転用されそうになった土地と建物を買い取って、蔵などを再生利用しようとした地元商店街の若者有志の取り組みがあったことだ。
 土建工学者が机上で立案したプランではない。


 その活用計画が資金やノウハウ面で暗礁に乗り上げたあと、その思いを、流通出身の服部さんたち、まちづくり長野が引き継いだ。
 そして「小さな旅気分を味わえるまち」をめざし、「消費者の購買感性の一致、カジュアルからベスト」といったコンセプトで立ち上げたという。
 書いて頂いたのは開店から7ヶ月目。当時は売上高5億円/年の目標はクリアできそうとのことだった。



 また『失敗に学ぶ中心市街地活性化』では長坂泰之さんが報告している。
 ここでは、服部さんたちが「観光客に依存せず、地元の人に支持される生活提案型の商業集積」を目ざしたことを強調している。

久繁さんの対案は有効か?

 さて、今、ぱてぃお大門が狙いを外し、久繁さんが言うように閑古鳥が鳴き、危機に瀕しているのかどうか、僕は知らない。
 ただ、もともと行列ができるような繁昌店を目ざしていた訳ではないと思う。
 また、やや高級をねらった路線が、リーマンショック後、苦戦している可能性はある。


 だが、久繁さんの対案、ぱてぃお大門は善光寺との連携という戦略を欠いたがゆえに失敗した。だからバスツアーのセット対象にすべき、という指摘は、明らかに間違っている。そういう一過性の、久繁さんが言う小樽三点セットのようなものにしない、というのが狙いだったのだ。そんなものにするくらいなら、断念した方がましだとの出発点だった。


 では久繁さんの第二の対案「スローフード飲食店にして、まず地元市民に愛用されよ」はどうだろうか。
 これは服部さんたちの「地元の人に支持される生活提案型の商業集積」という思いと紙一重だろう。カジュアルからベストへというプラスαの消費を狙ったことが、吉と出たのか、凶と出たのか、ではないか。


 たが、飲食店へ顧客が求めるものが「値段か、量の多さ(p98)」だという久繁さんの感性は、それこそ「おじさん」的にすぎないか。僕の感性にはぴったりだが、消費をリードしている女性たちが、本当にそんなことを求めているとは思えない。

がんばれ!ぱてぃお大門!

 今は苦戦しているとしても、いつか地元の人たちが大切に思う店舗に育ってゆくに違いない。そこまで耐えてがんばってほしい。また工夫してほしい。
 HPを見ると、「日本料理 旬花」は今年、はなれを新設し、最大2組の受け入れを4組にしたそうだ。健闘を祈る。


 また久繁さん30分の滞在と、市民との意見交換だけではなく、計画当事者や店舗関係者への取材、経営数字の把握など、きちんとしてほしい。
 読者を引き込む「つかみ」話としてはうまいが、それだけで決めつけるのはないだろう。
 失敗だというなら、当初の狙いや方法のどこに無理があったのか、その後の状況変化への対応に失敗したのか、きちんと明らかにしなければ、単なるケナシだ。


 なんでも「郊外開発規制と街中に箱物を乱造するコンパクトシティ」のせいにし、土建工学者を非難していればそれですむ、というのは研究者、コンサルとしてまっとうなのだろうか。

続く


 注
 小樽のまちづくりも紹介させていただいたことがあるが、運河に取り組んだ峯山冨美さんは、厳しすぎるほどに、こういった観光のあり方に対して批判的だ。
 小樽三点セットのような観光が目立つかもしれないが、地元の人が中心となって楽しむもっと地道な動きも始まっている。(参照:西村幸夫・埒正浩『証言 町並み保存』(学芸出版社))


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矢作弘、瀬田史彦編著『中心市街地活性化・三法改正とまちづくり

横森豊雄、長坂泰之、久場清弘著『失敗に学ぶ中心市街地活性化―英国のコンパクトなまちづくりと日本の先進事例