広井良典『持続可能な福祉社会』(1)



 広井さんの本は実にエキサイティングだ。

 本書は、限りなき成長という時代が終わった今、どんな社会のかたちを目指すかを大胆に提言している。

人生前半の社会保障

 その一つの柱は、社会保障を高齢期を中心に考えるのではなく、人生前半の教育や雇用にまで広げて考えようということ。


 それは、市場経済の弊害を事後的に解消しようとする社会保障から、むしろ事前に、すべての子供や青年に機会を与えることに重点を置こうということでもある。


 また、機会があっても、その後の選択や努力、運で大きな差がつく。しかし、その果実は生きている内に味わってもらい、子孫にはやたらと残させない。相続税などストックの課税を強化しようとの提案だ。


 某飲み会で某コンサルタントの某氏と盛り上がったというか、むしろ盛り下がったのだが、まちづくり業界も出版業界も、グローバル経済の波にのってお金を追い求めでもしないかぎり、どうもコミュニティビジネス的な商売になってゆかざるをえないようだ。


 広井さんはもっとかっこよく「賃労働としのて労働」から「自己実現のための労働」に変わってゆくとされている(p149)。確かに「"競争と不安にかられて働けば働くほど失業率があがる"という現在の日本の皮肉な悪循環」にはもう疲れた。


 だからコミュニティビジネス的な商売が持続可能なら、それも悪くはないと思うのだが、まちづくり業界や出版では、それでは良くて年収300万、ヘタすると赤字だ。


 大人はそれでも構わないとしても、それが子々孫々まで固定化するのは困る。


 神戸の新開地でまちづくりの専門家として活躍しているF君が結婚したとか、久隆浩さんのお弟子さんが西宮でNPOを立ち上げて、とうとう目出度く結婚したとかいった話題が、すごいと言われるぐらいの業界だ。


 結婚ぐらいできて当たり前じゃないか。
 社会貢献に走って、結婚できない、子供が産めないなんてことでは、大勢が一流企業への就職を夢見るのも無理はない。


 今さら子供を産み、育てる年ではないので、想像しかできないのだが、人生前半の社会保障は、働き方を変えるためにも必須だろう。


(続く)


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持続可能な福祉社会―「もうひとつの日本」の構想 (ちくま新書)