椎川忍『地域に飛び出す公務員』(2)

頑張っている緑のふるさと協力隊

 もう一つ、民間のNPO法人地球緑化センターが20年前からはじめて大きな成果をあげたという「緑のふるさと協力隊」についても紹介しておこう。

 農山村に希望者を1年間派遣するという制度だが、生活費の支給は月5万円程度と、3年間、約15万円の報償の地域おこし協力隊よりずっと条件が悪い。自炊生活が前提で、地域住民と交流しながら地域との繋がりが深まっていくような活動を行う。特に地域の生活慣習や生活様式を受け入れ謙虚な姿勢で活動することが求められているという。
 最終的には地域に受け入れられ定住することを目ざしているが、いままで4割もの人たちが定住しているという。
 地域おこし協力隊の創設の際には、この制度を参考にされたそうだが、協力隊は一期生が任期を終わって3割程度の定住率だという。


 新規就農者の定着率が1割程度と言われるなかで、3割でも大成果と言えるし、この結果だけで、地域おこし協力隊と緑のふるさと協力隊の優劣を比較しても仕方がないが、条件が厳しいだけに参加者のモチベーションが高いのかもしれない。
 また地域おこし協力隊には隊員への報償のほか、研修費150万円が国から受け入れ自治体に支払われるが、緑のふるさと協力隊にはそういう支援はない。だが、NPO法人地球緑化センターと受け入れ自治体は綿密な連絡をとりあい、個別に手づくりのプログラムをつくって支援しているという。

 島根県会議員の三島おさむさんのブログで、地域おこし協力隊の制度が批判されたいた。
 いわく、受け入れ自治体に「何のプログラムもない。手を上げた地域、その地域の要請のある仕事をしてもらう。多くは、高齢化で人手がないので草刈や農業の手伝い」。「募集は総務省のお題目がそのまま掲載され、面接でもそんな話は」しない。
 「ひたすら草刈り。そこで、地域おこしという大きな課題にオフに取り組め」。「僕(三島)なら、さっさと尻を捲くるなあ。でも、それをしないところが今の若者? 正直、彼らはすごいと思いました」。
http://omis24.blog.fc2.com/blog-entry-196.html


 『僕ら地域おこし協力隊』はがんばっているところを取材し、収録した。だが、受け入れ側の行政ががんばらないと失敗するという話は斉藤さんに語って頂いた。
 人生の貴重な時期に3年間、地域で頑張ろうという気持ちをもって来た人をないがしろにするような地域には未来がないと思う。

緑の分権改革の行方

 ところで『緑の分権改革』という呼び名は民主党の原田総務大臣がつけたものだから、きっと消えるだろうが、その中身も全部破棄されるのだろうか。実は中身は自民党の時代から徐々に築かれてきたものもあり、地域おこし協力隊も民主党になる前に発足している。
 だが、自民だ、民主だという以上に、「あるものを生かす地域力創造」という自らが自らの力でできるミクロな話の積み重ねで経済・社会を良くしていこうという発想と、インフレ・ターゲットと公共事業の大拡大で成長をしようというマクロな話を最優先する思想では、本質的に真逆だという気がする。

 必要なインフラの維持・補修は喫緊の課題だし、公共事業の拡大が無前提に間違っているというつもりはないが、ようやく芽生えだしてきた自立の芽が摘まれ、他人任せの風潮が蔓延するのだとしたら、残念でならない。当面はインフレ期待で盛り上がるのか、他人頼りではなんともならないと、さらに多くの人が本気になるのか。

 『緑の分権改革』を出版したときの椎川さんへのインタビューのなかでも、緑の分権改革の調査事業が100%国費の有り難い補助金と受け止められているフシがあり、制度を変えるための提案をたくさんしてもらわないといけない時期に来ていると指摘されていた。
 さきほどの三島さんの批判にもあるように、人間、やすきに流れやすいということは確かだ。
 
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緑の分権改革: あるものを生かす地域力創造

僕ら地域おこし協力隊: 未来と社会に夢をもつ

○椎川さんインタビュー
http://www.gakugei-pub.jp/chosya/042siika/index.htm