椎川忍『地域に飛び出す公務員』(1)

椎川さんの地方への拘り


 昨年、『緑の分権改革』をお書き頂いた椎川さんが松江の今井書店から出された本。
 今井書店は「本の学校」を昔から支えてきた書店で、主催していた「大山緑陰シンポジウム」は一時期、出版界でも注目されていた。僕も参加していた「本の会」という関西の編集関係者が中心となっている会で、社長さんに講演に来ていただいたことがある。
 そういう地方で頑張っているところから出されたところに、椎川さんの拘りが色濃く出ていると思う。
 内容は『緑の分権改革』ではさらっと紹介されていた「公務員参加型の地域おこし」を書かれたもの。公務員に向けて「さあ、地域に飛び出そう!」と呼びかけている。

農山村の技術を生かす

 たくさん興味深い話が載っているが、考えさせられたのは「中小企業になれば中小企業対策の予算や融資が活用できますが、一人で黙々とものづくりを続けている人は、ほとんどなんの施策の支援も受けられない」という指摘だ。
 だから、そういう人たちに補助金を出せと言われているのではない。
 たとえば、和歌山県の山奥の小さな集落で箒をつくっているおばあちゃんがいたが、その方は農産物も、箒も、人様に売って儲けようという気持ちは少しもなかったという。でも、その箒がともかく素晴らしいというので、集落支援員の人が口説いて物産展などに出したところ飛ぶように売れるようになったという。
 売ることが目的とは限らないとしても、現金収入が生まれれば、技術の継承ができるかもしれない。
 椎川さんは、こういうことをもっと進めるためにネットを利用できないかと考えていたところ、驚いたことに、グーグルジャパンから転身した辻野晃一郎さんの会社、アレックスが、すでにやっているとある人から教えられたそうだ。
 アレックスは日本の優れた技術・デザインや伝統・文化に裏打ちされ、どこの国の人も手にとってみたくなるような製品を発掘し、世界の主要言語で使えるネットショッピングサイトを立ち上げている。
 HPを見てみると、「F1マシンのエンジン部品を製造したこともある会社がつくった高精度のサイコロ2個(2〜5万)」とか、「地面をけってバランス感覚を養うための木製二輪玩具(ペダルなし)〜秋田県の伝統工芸である「曲げ木」の技術を生かし、家具職人が丁寧に製作(4万)」とか、面白そうだが、とても手が出ない。
 「プリインストールされた音楽のみを聴くことができる缶バッジ型ポータブル音楽プレイヤー〜パッケージはアルバムのオリジナル・デザインを使用」なんて、そこまでやるかって感じ。
 それはともかく、ネットと物流の発達のおかげで、こういうものが販路を持てるようになるというのは、面白い。

続く



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緑の分権改革: あるものを生かす地域力創造