飯田哲也『原発の終わり、これからの社会 エネルギー政策のイノベーション』

 これはスタッフの宮本さんが、飯田さんにアタックしてものにした本だ。
 専門誌に寄稿されたものを中心に再構成したので、飯田さんの本としてはやや硬派かもしれないが、より詳しく知りたい人にはお薦めしたい。
 それはともかく、本書のうち、僕が注目したいくつかの点を紹介しよう。

日本の将来を背負う自然エネルギー

 世の中、脱原発か、原発容認かでもめているけど、問題の建て方がおかしいと思う。
 というのは、仮に原発が安全だとしても、将来を託すにたるかどうか、怪しいからだ。


 本書掲載の「図7 固定価格買取制度における自然エネルギーの負担と便益のイメージ」(出所:環境エネルギー政策研究所)を見て欲しい。


 自然エネルギーの固定価格買取制度のコストは、なるほど当初はエネルギー価格を押し上げるが、自然エネルギーの普及とコストダウンでいずれコストアップは小さくなっていく。そして、より重要なことは自然エネルギーの普及は化石燃料の価格を押し下げる効果があることが分かりやすく描かれている。

 僕は、以前から、この点を無視した議論が多いのではないかと思っていた。
 石油は数年前に投機マネーが流れ込んで暴騰していた。いまも中東情勢やピークアウトへの不安から100ドルを超えている。いつかは分からないが、石油は再び暴騰するだろう。
 日本のエネルギー自給率はたったの4%で、輸入額は23兆円にのぼるという。いまは円高だから石油が100ドルになってもそれほど高いと感じないが、これが円安になるとどうか。
 石油が暴騰した時、日本に資源がないことをはやし立てられ、円売りを仕掛けられたら、ダブルパンチに耐えられるだろうか。見たくない悪夢だ。


 だから、創エネ、節エネによる自給率アップは誰が見ても中長期的国益に叶う。
 しかも、そうして日本が石油の消費を減らし、その技術を輸出して各国の石油の消費が減れば、石油の需給はゆるむ。当然、価格は下がる。輸入量も減って、価格も湯水のように使っている場合よりは下がるのだから、打撃は数分の一になるはずだ。


 では安全な原発をつくるのと、自然エネルギーを頑張るのと、どちらが得だろうか。
 僕はウランが石油ほどではないにしても有限の資源であること、日本にはほとんどないことがポイントだと思う。
 石油が上がれば、つられて上がらないという保証はない。
 その点、自然エネルギーは無限だ。しかも、自然エネルギーは、近年急速にコストダウンが進み、風力など、一部ではコスト的にも見合うようになってきたいるという。


 たしかに核燃料サイクルができれば、ウランは要らなくなるという話があるが、河野太郎氏が指摘しているように「1967年に策定された長期計画では、1980年代後半までに高速増殖炉を実用化する」としていたが、いまでは2050年までずれこんでいる。40年以上をかけ一歩も前進していない。
 エネルギー危機は2050年までは待ってくれないのではないか。
 幸い、日本の原子炉の多くは、近々耐久年限を迎えるという。この際、次の建設を諦め、自然エネルギーによる自立を目指した方が賢いと思う。

地域の将来を担う自然エネルギー

 まちづくり、地域再生を追いかけてきた僕にとっては、国益も大事だが、地域に役立つかどうかが大事だ。
 その点、原発自然エネルギーは正反対の技術だといっても良い。
 原発は立地地域に多大な補助金と雇用をもたらしてきた。あれだけの事故を起こしても、やはりその魅力は捨てられないという人もいる。


 しかし、もう少し巨視的に見たらどうか。
 原発は大手ゼネコンの独壇場だ。地元の工務店では作れない。まして地元資本で原発を作ることも出来ない。だからせっかくの巨額の建設費も、維持費も、地元に落ちる割合は少ない。
 また、原発を多数抱える福島も、福井も、電力は東電、関電から買わなければならない。


 本書では秋田県の例をあげ、電力料金1000億円が県外に流出しており、これは特産品・秋田こまちの売上げに匹敵すると指摘している。
 秋田のGDPは約4兆円だから、これはなんと2.5%にあたる。これだけのお金が県内にとどまり、かりに2回転するだけでも5%も経済は成長する。
 「成長なんてどうでもいいや」派の僕がいうのはなんだが、電力の地産地消は地域経済へのインパクトがとっても大きい。


 小規模分散型の自然エネルギーは、原発のような特殊巨大な先端技術とは異なり、かなりの部分が県産化できる点が魅力だ。いや、意識的にハイテクで巨大な施設を避け、ローテクで域内でつくれることを目指すことにこそ自然エネルギー活用の真骨頂があるのだと思う。
 また小規模であれば地域のお金でもなんとか作れる。椎川忍氏は『緑の分権改革〜あるものを生かす地域力創造』で市民の投資でつくられた東近江の太陽光発電所の例をあげ、特に配当を地域通貨とすることで、経済効果が1.7倍になると強調されている。
 椎川さんも指摘しているが、メガソーラーを東京資本に作ってもらっても固定資産税ぐらいしか入ってこない。地元サイズでちまちまとつくっていくことが大事だ。


 本書では、地域コミュニティがなんらかの形で風車を所有しているデンマークの例が紹介されている。それはまた風車の騒音や振動、景観問題をコントロールするためのゾーニングへの地域社会の合意が表裏一体となっているという。
 喜ばしいことに、後者については、都市計画系のまちづくりで蓄積された思想と技術が生きるに違いない。

第四の産業革命

 本書の書名をめぐって、脱原発を入れるべきか否か、社内で長い議論があった。
 結論は、市場からは半歩先を行ってしまうことになるかもしれないが、著者の考えを尊重し、原発の時代がおわることは自然な流れであって、むしろ次の世界を構想することが大切だという意味をこめて、エネルギー政策のイノベーションをメインタイトルにした。
 飯田さんは本書で地域分散型の自然エネルギーは、農業、産業、ITにつぐ第四の革命だと言われている。同時に出された筑摩新書は、そこに主眼を置いた『エネルギー進化論: 「第4の革命」が日本を変える』という書名になっている。


 自動車の排ガス規制が良い例だが、政治力で排ガス規制に抵抗してサボタージュしたアメリカの自動車会社は、まじめに受け止めて技術開発に邁進した日本車にボロ負けした。
 同じように、「日本はこれから自然エネルギーに行くぞ」と宣言したら、日本とその産業界にはあっという間に世界の最先端に躍り出る底力があると思う。
 そういう決断を政治には望む。

(おわり)

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『原発のおわり、これから社会 エネルギー政策のイノベーション』

『エネルギー進化論: 「第4の革命」が日本を変える』