岸川政之著『高校生レストランの奇跡』

 三重県に高校生のお店ができて流行っている。町おこしの成功例だという話は聞いていたが、総務省の京都セミナーで仕掛け人の岸川さんのお話を初めて聞くことができた。


 当日は、高橋一夫さんも講演され、また椎川さんの紹介もあって、関連書※0を売るべく受付ロビーの端のほうで店を出していたのだが、開演も間際になって、男の人と事務局の人が慌ただしく駆けつけ、隣に机を出してジェルを並べだした。
 「なにをしているんですか」と聞くと、高校生がつくったハンド用のジェルとリップスティックを売るのだとと言いながら、ワンセット1000円なりのポップを手書きで素早くつくられた。
 最後に「これも売りましょうか?」と本を取り出された。
 その方が岸川さんで、本が「高校生レストランの奇跡」だった。


 講演は、時間がなかったこともあって、話が飛び飛びだったけど、町と高校生を愛する気持ちが伝わってきた。そして最後にジェルとスティックの宣伝をされたので、「これは高校生のためにも買わなくては」という気持ちになったのか、休憩時間には長蛇の列ができ、文字通り飛ぶように売れていた。


 その前の講演で高橋さんが地域ブランドには物語が必要だと言われていたが、まさにそれを実証したというところ。感動の物語のあとには売れゆきも感動的!ということだろう。


 僕は本を買った。
 やはり高校生レストランの顛末は面白い。とくに「まごの店」の建設の敷地や予算をめぐる村長さんや議員さんとのやり取りは印象的だ。
 たとえば、突然敷地変更を言い出した村長さんと岸川さんは対立するが、最後の最後になって、村長さんの真意がわかり、村長さんの子どもたちへの思いの深さを知り、岸川さんは尊重の意見を受け容れ、それを実現するため奮い立ったという。
 また最後の関門、議会での審議では、「岸川君、ほんとにこれだけでいいんか。必要なだけ計上したらどうか」という言葉が議員さんから出だそうだ。その内容も泣かせるが「岸川君」と議員さんが役場の職員と同じ土俵に乗って話しているという感じが、小さな自治体ならではだと思う。


 最後に岸川さんはまちおこしの四つのポイントを書いている。
 一つは「あるものを探す」こと。
 二つ目は「何でも自分たちで考え、自分たちでやる」こと。
 三つ目は「ビジネスを意識して仕掛けをする」こと。
 四つ目は「ゼロからイチを作る」こと。


 岸川さんは公務員だし、事業も補助金を一切使っていないわけではない。
 「まごの店」も建設費は補助金と町の持ち出しだ。
 しかし運営は独立採算を徹底し、とても気にかけておられる様子がよく分かる。


※0 石井淳蔵・高橋一夫編著『観光のビジネスモデル』、椎川忍『緑の分権改革』


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(おわり)