チェスター・リーブス著『世界が賞賛した日本の町の秘密』

 訳者の服部圭郎さんからお送り頂いた。
 開けてみると「ママチャリ絶賛」の本だった。面白くて、合間を見て読み通してしまった。


 ママチャリという安価で環境に優しく健康にも良い移動手段で、日常的な移動の多くがすませてしまえる「自転車町内」の素晴らしさを「これでもか」と語った本。


 著者はカルチャル・ランドスケープ史の専門家で1945年生まれのアメリカ人。ヴァーモント大学歴史学科名誉教授。1992年に初来日し、数年間、東京芸術大学東京大学客員教授をされていた方だ。


 僕も自転車礼賛の本は出してきたし、著者が自転車町内と呼ぶ細街路に恵まれた日本の町の素晴らしさを語った本もいくつも出してきた。だが、「ママチャリはどうもね」というのが今までの感想だった。


 それが、スポーツサイクルなど「高価なものほど良い」という偏見だったと気づかせてくれた。あまりにも当たり前に存在するうえ、気楽に放置されるなど、その安易な扱われ方に腹を立てていたが、悪いのはママチャリでもママチャリストでもなく、一部の心ない利用者に過ぎないということだ。

 土地の人は「自分の土地の良さに当たり前すぎて気づいていない」というような書き方をしている本も出しているが、まさに、僕もそんな人だったというわけ。


 ただ「自転車が車道を走るのが原則」という点では著者と意見が異なる。
 著者は車と物理的に区切られた専用レーンが理想だが、それが出来ないなら歩道で歩行者との共存を図るのが合理的だという。
 スピードの出るスポーツサイクルなら車道を走ることも無理はないが、ママチャリでは車道は恐すぎるというわけだ。
 たしかに、ビュンビュン飛ばし、時には排気ガスをまき散らす車と混じって走るのはしんどいし、スピードの出ないママチャリなら一層たいへんだと思うが、だからといって狭い歩道を走って良いというものではないと思う。


 著者が言うように、車と物理的に分けられた専用レーンが増えることが理想だが、それが出来るまでは、線が引かれただけの自転車レーンの早急な確保が必要だ。
 そして皆が車道を走ることで、ドライバーに、自転車が走っているのが当たり前だと気づいてもらわないといけないと思う。


 ところで、著者は世界中で歴史的な小さな町や町並みを愛する人たちと一緒に自動車に乗ったとき、彼らも「ハンドルを握ると中心市街地にある素晴らしい小さな食堂に入らずに、バイパス沿いの大きな駐車場のあるフランチャイズのファーストフードレストランに入って」いると指摘している。
 郊外化による中心市街地の衰退を嘆いている多くの人たちも同じだろう。

 だから中心市街地の衰退を嘆くなんてポーズに過ぎないのか、それとも、思想信条にかかわらず、こんな行動を取らせてしまうほど、車が人々の自由を縛る移動手段なのか。自身を振り返って考えてみなければ。


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『世界が賞賛した日本の町の秘密』


(おわり)