『いま、都市をつくる仕事』(日本都市計画学会関西支部・次世代の「都市をつくる仕事」研究会)(2)
都市をつくるとは、どういうことか(続く)
昨日も「つくる」という言葉にこだわったが、今日はもう少し「都市をつくる仕事」の中味を見てみたい。
都市をつくる仕事は、都市計画、都市開発とはイコールではないだろう。
都市に関わっている、魅力的にしているというだけなら、都市で生活し、働いている人すべてがそうだともいえる。そう呼べる仕事が本当にあるのだろうか?
本のなかで杉本容子さんは「「都市をつくる仕事」とは、パブリックな関係性や場、空間をつくること」と書いている。これは、なんとなく分かる。
関係性や場は、「つくる」ことはできない。この本でも取り上げられている山崎亮さんは、関係性を「つくる」名人だと思うが、その「つくる」は建築を「つくる」という場合とはかなり意味が違う。関係性がつくられたり、変わったりするように働きかけるという感じじゃないかと思う。
それに対して、空間はつくることができる。そのつくる過程が、関係性や場づくりに大きく関わる場合もあるし、そのつくられた空間が関係性や場の物理的な基盤となることも間違いない。
もちろん空間づくりとは全く関係なく、関係性や場に関わる活動も多いと思う。だが空間づくりに関わる場面は、その程度はともあれ、意外と多いのではないか。だから建築や都市計画の人たちが、そこに参画していくことは自然じゃないだろうか。
まして、ハードには多額の費用と手間暇が税金からつぎ込まれ、また民間投資も巨額にのぼることを考えれば、それだけ力をいれたものが、パブリックな関係性や場の成立を阻害して良いわけがない。逆に良い影響を与えるためには建築や都市計画の知識と経験を持った人たちが、関係性や場づくりを睨みながら空間づくりに関わることが必須だと思う。
佐藤滋さんは『まちづくり市民事業』で、建築の職能が前にでるべきだと強調されていた。セミナーでは空間にも関わるような市民事業で「もうちょっと僕は建築という職の領域がこういう所にしゃしゃり出ていって「俺がやるんだ」と全体をまとめていく方がいいんじゃないか」と言われていた。
ただ、それは建築でなければ出来ないということではなく、「建築が出ていって全部コーディネートすると言ったときに、福祉の連中も本気で出て噛み合ってくるというようなことじゃないか」とされている。ようは遠慮することはない。積極的に出て行けば、他の分野の人たちだってマジで勝負してくる、ということだ。
そのあたり、人によって微妙にニュアンスが違って、なぜか思いがすれ違うのだが、「都市をつくる仕事」に、従来の建築・都市計画分野の人たちが打って出るのに、何も躊躇することはないということだろう。
どんな人が都市をつくる仕事をしているのか
ところで、この本で紹介されている人のうち何人かは行政マンであったり、プランナーで、彼らはその仕事でメシを食っている。
ただ食えるほど稼げないけど、プランナーのような専門的な貢献をしている人たちもいる。彼らにストックがあるうちは良いが、いずれどうしようもなくなる。
一方、何人かはお店の経営者であったり、旅のコーディネーターであったり、雑誌の発行・イベントの主催者であったりする。いまは意識的に取り組んでいる彼らに注目が集まっているが、いずれ本当は特に意識せずとも「結果として関係性や場をつくっていく」ような人、仕事が増えない限り、都市は大きくは変わらないだろう。
なお、どんな人が取り上げられているかだが、本書の第1章では以下の10の魅力的な活動が紹介されている。
コンサルタント×NPO 泉 英明
コンサルタント×NPO あまけん
京都市都市計画局 文山達昭
奈良市長 仲川げん
OSAKA旅めがね
ビルマニアカフェ(BMC)
サロン・ド・アマント
地域密着型プランナー 高林洋臣
まちづくりコーディネーター 大島祥子
コミュニティデザイナー 山崎 亮
また2章の「若手の実践リファレンス」では43名のプロフィールが紹介されている。
これには行政やNPO、研究者のほか、企業系の方々も入っている。企業系の方々の業種としては、不動産、開発、コンサル、建築設計、芸術、メディア、農業など多彩に網羅されている。
とはいえ、たとえば、金融系が紹介されていないのは、日本の閉塞状況の表れだろうか。
商業・産業など、都市活動の王道の方々のなかに、「パブリックな関係性や場の成立を促すことを意識」してくれる人たちが出てきて欲しい物だ。
○『いま、都市をつくる仕事』詳細情報
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1293-4.htm
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