安田亘宏、才原清一郎『食旅と農商工連携』

『食旅と観光まちづくり』に続く食旅シリーズ、第二弾。


 食旅というのは「食」を主目的とした旅でフードツーリズムとほぼ同じ意味だ。
 一方、農商工連携は昨今の政策用語で、農業など一次産業と二次、三次産業がそれぞれの強みを生かして地域の特産物を生みだそうというもの。「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」なんてものまで出来ている。


 だが、わざわざ農商工連携と言わなくても、食旅は、食という一次産業と、観光という三次産業がなくては成り立たない。逆に言えば、農商工連携と食旅は相性がとても良いのではないかというのが、この本の出発点だ。


 これを旅の方から見ると、食旅のなかには、東京に本場フランスから輸入した食材を使ってフランス人のシェフが料理をするフランス料理を食べに行くというものもないわけではないが、食材の産地に行って食べてこそ、というものが多い。現地でこそ、ホンモノという価値が味わえると言うことは、旅の大きな動機になるだろう。


 一方、食のほうから見ると、その土地の風土や文化のなかで、食べて貰えることは、食の価値を大きくする。


 というのもこの本のなかにも紹介されているが、美味しいかどうかは極めて主観的な物で、食べる環境や付加された情報で大きく影響されるからだ。


 たとえば「超高級ブランド黒毛和牛とスーパーで売られている輸入肉等を芸能人に目隠しして食べさせ、どちらが高級品かを答えさせたところ、たいていは当たるも八卦、当たらぬも八卦」だという。


 ということは、目の前でとれたトレトレのお魚だとか、京文化に彩られた料亭での京料理とかが、美味しく感じられるのは当たり前なのだ。


 まして昨今は、物語が求められる時代だ。「地元産の○○という品種しか使っていない」とか、「昼間見たあの美しい茶畑で取れたお茶」だとか、美味しく感じられる物語が容易に作り出せるのも観光の力だろう。


 補助金をもらって農商工連携に取り組んでみた物の、なかなか売れないという例もあると聞く。インターネットで売るのも良いのだが、インターネットではその土地の本当の物語は伝わらない。観光とタイアップしたマーケティングによって、商品のファンを確実に増やす食旅の活用をもっと考えては如何だろうか。

(おわり)


○リンク
『食旅と農商工連携のまちづくり』
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1292-7.htm

○アマゾンリンク
『食旅と観光まちづくり』
http://www.gakugei-pub.jp/mokuroku/book/ISBN978-4-7615-1273-6.htm


○『食旅と観光まちづくり』出版記念セミナー記録
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1009yasu/index.htm