石井淳蔵・高橋一夫編「観光のビジネスモデル〜利益を生み出す仕組み考える〜」(1)


 12月に出版する標記の本の校正を読んだ。
 編者は石井淳蔵流通科学大学学長)と高橋一夫(流通科学大学サービス産業学部 教授)。石井さんはマーケティングではトップクラスの学者だ。


 もともとは観光業界の若い人たちが夢をもてるように「明るい観光の未来」を示そうというものだった。


 そのためには、「やりがい」はもちろんだが、霞を食っては生きていけない。規模の拡大から脱して、ノウハウやサービスを売上や集客数ではなく「利益」に変えていく仕組みを示そう。そのために先進事例を経済学や経営学の理論から読み解き、現場で生かせる本を目ざそうというのが出発点だった。

お客様一人一人とつながる

 観光業は90年代半ばにピークを越え、「価値観の多様化」や「ITの進化」に振り回されて、儲からないビジネスモデルになってしまっているという。
 特に問題なのは、コモディティ化というそうだが、どれもこれも似たような商品になってしまって、低価格競争しかやることがないという状態になっていることだという。


 では、どうやって打開するのか?


 たとえば低価格競争からの脱却のために、顧客一人一人と企業とのつながりを強めようと、パーソナルなコミュニケーションを重視する流れがある。
 最近、良く言われるのは、ツィッターフェースブックなどを使って個々にコミュニケーションを取ろうという試みだ。


 だが、こういくつながりは、マスセールス、流通合理化のなかで棄ててきたことだ。
 人的ホスピタリティにたっぷり手間暇をかけられる高級ホテルや料亭ならともかく、旅行会社にそんなことは可能なのか。楽天トラベルのようにパソコンで注文できれば充分ではなかったのか。


 そこで、眼からウロコだったのは、本書に紹介されている旅行会社の店頭販売員の重要性だ。
 アメリカやイギリスでは、ITの無味乾燥で、割と面倒な応答に困っている人びとが店頭に戻ってきているという。そして言われてみれば「なるほど」なのだが、店頭での応答を重視する人たちは購入単価が高いのだそうだ。


 観光の単価は多様だ。なんでも人手を減らして安くという発想から抜け出せば、突破点がありそうな気がする。またIT化、グローバル化に対応しようと人手を減らすと、雇用不安をもたらし、国内景気をさらに悪化させるという悪循環からの脱却の道も、案外こんなところにあるのかもしれない。


(おわり)