室崎益輝さんの講演

 京都の総合地球環境学研究所(地球研)が主催した室粼益輝さんの「東日本大震災−被災者主体の復興への道筋」(5.19)という講演を聞いてきた。

被災地に仮設市街地をつくれ!

 一番興味深かったのは、国の方針を真っ向から批判し、津波にやられてしまった市街地にこそ仮設市街地をつくるべき、という主張だ。
 その第一の理由は、確率から言えば、津波に襲われた地域といえども危険度は決して高くないからだという。確かに津波にやられる危険性より、普通に暮らしていて車に跳ねられる危険性のほうが余ほど高い。低地がダメだというなら、津波についても東南海地震が目前に迫っている和歌山や高知に何の手も打たないのは矛盾していると言う。


 室崎さんが二番目に挙げられた理由は三陸では漁業の再生こそ鍵であり、そのためには、漁港の機能を回復し、仮設でもよいから関連施設をつくることが必要だということ。
 それを水道等の復旧もせずに、建築禁止にしてしまっては、復旧すらままならない。そんなことをしていたら、遠洋漁業など、なにも東北にこだわらなくても良いものは、他の漁港に逃げてしまう。そうしたら二度と戻ってこないという。


 細かい点、たとえば今後の大規模余震による津波は心配ないのかとか、防潮堤がやられ、地盤が沈下しているところでは、高潮でも浸水しかねないのではないかといった疑問は残るが、大局的にはその通りだと思う。
 今回津波に手ひどい目に遭わされたからといって、それだけを絶対視するのはおかしい。1000年とか数百年に一度の天変地異を対象に、安全を最優先するなら日本には住めなくなる。

総論の具体論を早く作れ!

 もうひとつ、今の議論にかけているのは総論の具体論だという点が興味深かった。
 東北の復興を全力で応援しようというのは美しい。しかし、これだけではリップサービスにすぎない。いったい幾らまでお金を出すのかが、いっこうに固まらない。


 財源は増税国債か、消費税か所得税かといった細かい議論に入ってしまって紛糾し、何も見えてこない。まして高台か、高層ビルか、はてはどこに記念碑をつくるかなど、細かい議論に入ってしまうのは論外だ。
 そんなことは後回しにして、ともかく50兆円は確保するから、これを各自治体がよかれと思うように使え!と言えば良いという。


 そして、復興の目ざすべき方向は、物語復興が鍵になると言われた。
 これは被災した人びとが10日間なら10日間、集中して話し合う。それも、こんな喫茶店があったら良いとか、家の前には花壇が欲しいとか、こんな町に暮らしたいという夢を語る。復興計画では、それを一つ一つ実現していく。
 これはアメリカのサンフランシスコの地震のときにサンタクルーズの復興で大成功した方法で、サンタクルーズは語られた夢の通り復興している。
 その経験は中越でも取り入れられた。


 まずは避難所等の状況を改善すること。そして被災地に少しはゆったりしていただける仮設を建てること。漁業などの生業の再生を最優先すること。そして、少しは落ち着いて自身の将来を考えられるようになったときに、町の将来への夢を紡ぎ計画を立てていくこと。これを被災者、被災自治体に寄り添いながら、出しゃばらずに支援していくことが必要だと言われた。

復興でなくてはいけないのか

 室崎さんは冒頭で、もとに戻す復旧ではなく、地球環境問題や経済問題、高齢社会問題、過疎過密問題の解決を、同時並行にはかる復興が望ましいと強調された。

 僕はこれは欲張りすぎだと思う。平時にも解決策が見つからなかったことを、非常時に解決しようというのは都市計画の習癖だ。だが、人口減少の時代、目ざすべき先もはっきりしないときに、右肩上がりの発想のまま新しい絵を描こうとするから、高台移転とか、人工地盤とか、今までのあり方を全否定する話が飛び出してくるのではないだろうか。


 だから、復旧を基本として、どうしてもまずい点は改める。足りない点は補い、過剰な点は棄てる復旧±αのほうがよいのではないかと思う。


 この点はちょっと違うのだが、興味深いお話しだったので、インタビューのかわりにご講演を起こして記録させていただくことにした。
 そのうち公開できると思うので、期待してください。

(おわり)