山崎亮『コミュニティ・デザイン』(4)

山崎さんとの今までの仕事(続き)

『季刊まちづくり29号』「民間企業が地域のためにできること」

 これは最近の注目の仕事、マルヤガーデンズを書かれたものだ。


 鹿児島の中心市街地・天文館地区にあったデパート、鹿児島三越は、元は地元の呉服屋からデパートになった丸屋だった。その鹿児島三越が閉店を決めたとき、建物を所有していた丸屋の社長、玉川恵さんはなんとか丸屋デパートを再開したいと考えた。


 改装チームに加わることになった山崎さんは、コミュニティが自由に活動できる複数のガーデンを持つ商業施設を提案する。


 今は量販店やネットショップが隆盛で、デパートに来る人は減っている。そのうえデパートに来たとしても、ファッションに興味のない人が、ファッションのフロアを訪れることは少ない。


 ならば、余裕のあるスペースを様々なコミュニティ活動に貸し、そこに集まる人々が、同じフロアでたまたま出会った商品に関心を持って貰えると良いのではないか。


 そもそも、巨大な売場に見合う売上げがなかったから、三越が撤退したのだろう。ならば売場を目一杯使うことには無理がある。だからと言って、建物の一部を閉めたままでは、回遊が生まれにくい。だったら一種の公共広場をもうけ、コミュニティに活用してもらって、そこに来る人たちは来街者と考えるのはどうか。


 スペース効率を最優先する従来の考え方を180度変え、売上げ減少の時代に適応した一歩下がってのスペース活用術は、玉川さんの理解を得て、進められることになった。


 その場所を使う人々をどうするのか?
 ここでも山崎さん流のコミュニティ・デザインが見事な成果をあげる。


 まず、市内の団体やグループにヒアリングにいって、相手を知り、また自分たちを知ってもらう。そして使ってくれそうな人たちをワークショップに誘い、どんな設備が必要か、どんなルールが必要かを話し合っていく。


 そうしたなかで、丸屋からは独立し、丸屋に頼りきることがない運営主体が立ち上がってくる。マルヤガーデンズ(丸屋)とガーデンを使うコミュニティの間にコミッティが設けられ、ガーデンのマネージメントが中立的な立場から行われるようになる。
 また個人でもガーデンに参加できるよう、カルティベーターという役割も設けられ、マルヤガーデンズや天文館地区の情報発信を行うようになった。


 このようにして、デパートは単なる商業施設、箱から、広場を持つ街となった。
 コミュニティ・プログラムはオープン後も増え続け月200回となり、ガーデンを使うコミュニティとマルヤガーデンズのテナントの協働も増えてきたという。
 まさに商業施設の再生が、地域に散らばっていたコミュニティの力を呼び覚まし、多くの人の目に見えるようにし、繋がりを多様にすることで、地域の創造力を高めたということが出来るのではないか。

『コミュニティ・デザイン』と震災復興

 この本では、ランドスケープ・エクスプロラーやマルヤガーデンズのほか、あそびの王国や家島、海士町でのプロジェクトなどを含め、山崎さんが空間の設計者からコミュニティ・デザイナーへと深化してきた経緯が書かれている。


 日曜日(3.27)のNHKの番組は震災からの復興をとりあげ、塩崎賢明さんや増田寛也総務大臣、それに松本防災担当大臣などが口を揃えてコミュニティの絆の大切さを強調していた。
 それが口先だけに終わらないことを願う。
 司会者は「国が責任をもって」やり抜くことが必要と繰り返していたが、丸抱えはできないだろうし、望ましくもないと思う。
 インフラの復旧はもちろん、生活再建の様々な場面で、国の力が必要だが、究極的には地域の力が鍵になる。
 そこで、コミュニティ・デザインの役割は大きい。


 被災地だけではない。人口減少、地方都市の衰退、財政危機など、価値観が大きくゆらぐなかでの今回の巨大災害と原発事故、ささやかれている石油のピークアウト、食糧危機・・・あまりに不安な時代だからこそ、人間への信頼を基礎を置き、繋がりを取り戻すコミュニティ・デザインに普遍的な可能性を感じる。

(おわり)