佐々木一成『地域ブランドと魅力あるまちづくり』いよいよ出版(2)


統合ブランドとしての京都


 佐々木さんは本書の最後で統合ブランドを京都を例に論じている。
 ここでは、その議論を紹介しよう。

京都という地域性

 言うまでもなく京都は歴史と文化に恵まれ、山紫水明も随一だ。
 伝統産業も根付いているが、同時に、それらを広く活用し、独創的で革新的な活動へと繋いでいく創造都市でもある。
 町なかには文化施設や大学も多く、混在を特徴とする町なかが孵卵器の役割を果たし、多くの新事業や地域ブランドが生み出されている。

厚みのある特産物(サービス)ブランド

 まず伝統に根を持つ特産物が山のようにある。
 西陣織や京友禅京仏具京料理京野菜京菓子……。
 それらを守る活動も盛んで、京都府内で登録査定された地域団体商標は57件を数え、全国の1割を占め、二位の岐阜県の倍を超えている。


 たとえば代表的な特産品ブランドである京野菜について言えば、1987年に京都府が率先して京の伝統野菜を定義し、1989年には認証制度も始めている。だから同じ賀茂なすでも京都府外で生産された物は京野菜と呼ぶと違法だ。

景観規制と文化・環境ブランド

 京都は1930年から風致地区を持ち、その後、古都保存法が適用され、さらに1972年には市街地景観条例を制定した。
 景観法施行後の2007年の大幅な高さ規制の見直しは有名だが、それまでも、あっと驚くような規制強化を段階的に実施してきている。特に1990年代が転機だろう。町家の保全再生への取り組みもこの頃から始まっている。
 また2007年には同時に眺望景観の保全にも取り組んだ。
 遅きにすぎたという批判はあるし、今なお、大きな町家が壊されるのを見ると悲しくなるが、なんとか再生したいという気持ちは市民のコンセンサスになりつつある。

良質で魅力に富む観光ブランド

 京都には世界遺産があり、国法や重要文化財も多く、日本交通公社が言う特A級の観光資源も全国37件のうち4件が京都市内にある。
 佐々木さんはあえて上げていないが、それだけではない。
 最高級の旅館、料亭から、小料理屋、レストラン、それも町家を活かし若いシェフが頑張っているものが無数にあるし、昨今は漫画ミュージアムが人気だ。また、歌舞伎の南座や、劇団四季の常設劇場もあり、芸術系の大学も多く、若手アーティストも多い。だから年中行事は伝統的な物から最近の物まで多種多彩にある。


 京都の入り込み観光客数は長らく4000万人弱で推移してきたが、バブル崩壊や、上記のまちづくりの見直しがはじまった1990年代半ばから徐々に回復し、現在、5000万人前後となっている。
 少ないながらも欧米人観光客をつかんでいること、修学旅行も100万人を堅持していることも大きいが、大多数を占めるのは近隣や東京からのリピーターだ。


 訪問回数が10回を超える人が半数を超え、5回を超える人はほぼ8割になる。
 ただし日帰り客が多く、宿泊客は四分の一に満たない。

京都ブランドと水

 佐々木さんは霧島の水をお取り寄せして使っておられるそうなので、水への拘りが深い。
 だから、京都と水の関係に着目されている。
 寺社には水がつきものだし、京料理は京の水でなければ味が出ないと言う。伏見のお酒も東山の水源だし、豆腐はもちろん、染め物も野菜も水があって育った。


 だが、その京の水が万全ではない。
 2001年の水道法の改正でホテルや商業施設などが地下水を利用した専用水道の布設が可能になったが、市に取水をコントロールする条例はない。


 また、森は海の恋人と言われるが、京都の水も森に支えられている。
 僕は伏見の酒屋さんから、お酒を造る良質の地下水を守るために、森を守る活動に取り組んでいると聞いたことがあるが、まだ広まっていない。


 佐々木さんは、加えて、伝統産業を支えた職人技の伝承、宿泊客数の伸び悩みを課題として上げておられる。また相変わらず特定時期に集中してしまい交通渋滞を引き起こしていることも課題だと指摘されている。
 パーク&ライド等の社会実験が進められているが、観光客にはモビリティマネジメントも使いにくく、決定打は見えていないと僕は思う。

統合ブランド化への課題


 このように紹介されると、盤石のように思えてしまうが、実際はそうでもない。
 伝統産業の凋楽は目を覆いたくなる状態だし、景観も今さら規制しても再生には100年はかかるだろう。だいいち、京町家と調和する、普通のお家のあり方はまだ見いだせていない。


 佐々木さんは統合ブランドで成功した街として喜多方と小布施を上げている。


 喜多方は蔵の町としてマニアが訪れるようになり、その人たちがラーメンの美味しさに感激して口コミで広げてブレークしたという。
 蔵もラーメンも地元の人びとが育てた本物だ。


 だが、山田雄一さんは『観光まちづくりのマーケティングセミナーで、喜多方ラーメンを食べに来る人が、蔵の街を見に来る訳ではない、と強調していた。
 それはそうかもしれないが、蔵を見に来る人の大半は、ラーメンも食べるのではないだろうか。客層が違うことにより、深みが出ていると言うことも出来るだろう。


 小布施はどうだろう。
 北斎館やその周辺を見にいって、小布施堂があるかないかでは大違いだ。お土産に買ってもまず安心できる。
 だが、小布施堂だけのために小布施に行くかというと、僕は行かない。


 このように統合ブランドは、とらえどころがないところがあるが、なんといっても一番重要なのは、特産品や、観光ブランドは、その業界内ににしか経済効果をもたらさないが、統合ブランドは業界を越えてプラスに働くし、市民の誇りの源泉にもなることだ。


 生活環境や都市空間、歴史的町並みなどから取り組む「まちづくり」と、特産品づくりから取り組む「まちづくり」が、もっと相互に手を結び統合力を発揮することを考えて欲しい。


 この点、下記のように東京と京都でセミナーも開催するので、是非、議論してみたい。


(おわり)

セミナー

地域ブランドと魅力あるまちづくりin京都
 講師:佐々木一成 氏
 2011年3月4日(金曜日)/午後6時00分開場、6時30分から8時半頃まで
 場所:学芸出版社3階
 申込み http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1103sasaki/index.htm


地域ブランドと魅力あるまちづくりin東京
 講師:佐々木一成 氏
 2011年4月7日(木曜日)/午後6時00分開場、6時30分から8時半頃まで
 場所:市田邸(谷中)
 申込み http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1104sasa/index.htm

○脱稿時のブログ
特報・『地域ブランドと魅力あるまちづくり』その1
特報・『地域ブランドと魅力あるまちづくり』その2
特報・『地域ブランドと魅力あるまちづくり』その3
佐々木一成さんへのインタビュー

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・佐々木一成『地域ブランドと魅力あるまちづくり―産業振興・地域おこしの新しいかたち


・佐々木一成『観光振興と魅力あるまちづくり―地域ツーリズムの展望


地域ブランド関連書
・十代田朗、山田雄一、内田純一、伊良皆啓、太田正隆、丹治朋子著『観光まちづくりのマーケティング


・敷田麻実、内田純一、森重昌之編著『観光の地域ブランディング―交流によるまちづくりのしくみ