まちづくり市民事業(7)

まちづくり市民事業の連鎖とは

 まちづくり市民事業とは何かについてだが、佐藤滋さんは、入口は非常に広くとらえておられる。
 いままで建築や都市計画で語られるまちづくりは、言っても行政による都市計画があって、それに対する補完だったり、反対だった。参加や住民主体といっても、事業やルールづくりなど行政的なまちづくりとまったく関わりのないものは目に入っていなかったと思う。


 それにたいして、佐藤さんの「まちづくり市民事業」には、民間事業も含めた無限の広がりの可能性が伺える。


 たとえば事例編では小樽が典型なのだが、ここで紹介されているのは民間が、市場のなかでの賢明な選択として行った事業が、結果的に都市の公共空間に貢献しているという話だ。同じく事例編の鳥取尾道にもその萌芽が見られるように思う。



 再び京都の町家の話をすれば、2万数千戸とも4万戸とも言われる町家のうち、文化財として保護されているのは数十戸、町家再生研など狭い意味でのまちづくり市民事業が関わった再生も百〜数百程度に過ぎないと言う(宗田好史『町家再生の論理』)。


 それに対して質には大いに問題があると言われるが、町家レストラン等に利活用されているものは千から二千である。この量の違いは大きい。
 だが、そえでも1割にも満たない。町家に住むということが一部の人の趣味ではなく、誰もが羨むぐらいにならないと、2万数千戸は蘇らない。逆に誰もが羨むようになれば、市場で十分に成立するはずだ。


 そうなるかどうかは世の中の好みというか、社会的経済的な流れが大きいのだが、こういう良い空間や利用法があるぞと示すのも、またそういうものを妨げているルールを変えていくのも、まちづくり市民事業の役割ではないだろうか。

ガバナンスの形とは

 佐藤さんの構想は遠大だ。
 まちづくり市民事業が澎湃としてわき起こり、それらが連携して自己組織化してゆき、自由な議論が渦巻き、そこから新たなまちづくり市民事業が生まれるプラットフォームをつくりあげていく。
 さらには、それらまちづくり市民事業だけではなく、個人の事業や公共事業を含めて地域全体の事業をコーディネートし全体をマネージメントするまちづくりパートナーシップ組織が生まれる。
 そのうえ、それらが多数生まれ、連携し、都市圏全体をマネージメントしていくというものだ。


 都市圏となると、場合によっては基礎自治体の範囲をこえた広がりだ。
 そういった広い範囲のマネージメントに寄与するぐらいの力をもつと言うことと、マネージメントの権限を持つと言うことは違う。
 選挙で選ばれるといった代表性は担保されるのか、元気な地域、地区は良いだろうが、まちづくり市民事業や、パートナーシップ組織を生み出す元気も出ない衰退地区はどうなるのだろうか。



 以上、若干の疑問を出してみた。


 しかし、それ以上に〈自分たちで事業を立ち上げ、運営し、持続できるだけの利益をあげならが、まちづくりを進めていく〉、〈まちづくりのルールも自分たちの力で運営していく〉ということ自体が、大変なことだと思う。
 本来は税金をとっている行政が当然なすべきことも含まれているのだから、その部分は行政がきっちり支えるべきだろう。


 だから、本書は行政の方にも是非、読んでいただきたい。


 また建築や都市計画を学んだ専門家・実務家の皆さんには、こういった枠組のなかで、どのような仕事が求められているのか、考えながら読んでいただければと思う。
 僕自身がハード軽視の傾向があるので反省なのだが、ハードな空間整備の意味は決して薄れていない。
 「都市の空間構成は、まさに社会経済システムを映す鏡」「その空間が基盤となり社会の活動を支える」という点は、極めて当たり前のことだが、忘れがちな点だと思う。
 しかし支え合いの経済の苗床となる空間は作り出せるのか?、あるいは守り切れるのか?。
 それはまだ解けていない課題ではないか。
 専門家・実務家の人たちに、正面から取り組んでいただきたいところだ。


(おわり)


○特報
 佐藤滋さん「まちづくり市民事業」京都セミナー決定!。4月22日。
 早稲田セミナーは4月8日で準備中。
 5月17日にはこの本のなかで「第9章 まちづくり市民事業の到達点〜山形県鶴岡市中心市街地」「11 章 まちづくり市民事業における担い手の役割〜専門家の連携と職能拡大の必要性」を担当された川原晋さんを京都に向かえてのセミナーも行います。


○参照

・佐藤滋さんへのインタビュー
 蓑原敬編著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に寄稿された「地域協働の時代の都市計画――まちづくり市民事業からの再構築」についてお聞きしました。
 http://www.gakugei-pub.jp/chosya/012sato/s_index.htm


○佐藤滋さんの本

原敬、佐藤滋他『都市計画根底から見なおし新たな挑戦へ


佐藤滋編著『まちづくりデザインゲーム


○季刊まちづくりの関連特集
「まちづくり市民事業と中心市街地活性化」『季刊まちづくり 21

「まちづくりから地域マネジメント戦略へ」『季刊まちづくり 29


・支え合いの経済と都市空間については
広井良典「6章 コミュニティとしての都市──定常型社会と「福祉都市」のビジョン」(蓑原敬編著『都市計画根底から見なおし新たな挑戦へ』)を参照。