まちづくり市民事業(6)

6 まちづくり市民事業が拓く世界

6-1 都市・地域のガバナンスとしての連帯モデル

 5-5で示唆されたのは、「自律した地域のまちづくりパートナーシップ組織が連携し、自治体政府とともに役割分担をして地域を運営する」共治の姿である。


 このとき、公共事業予算も地域にブロックグラントとして予算化・配分され、地域の中でまちづくり市民事業と連携し、まちづくり市民事業と同様なプロセスで、デザインから運営管理までがなされることになる。


 すなわち公共・公益事業を含め、多様なまちづくり市民事業を連携させる仕組みにより、個別の「地域」が自律し、相互に連帯し総合的な再生のみちを進むことになる。

6-2 地域協働の都市デザインが生み出す空間像


 さて、ハードな空間整備を十把一絡げにして無駄な公共事業、箱もの行政と非難する向きもあるが、果たしてそれで良いのだろうか。


 たとえば「地域再生の代表的な成功例であるいわゆる「第3のイタリア」は、デザイン産業や工芸等を基礎にして産業を発展させたが、その基礎にイタリア歴史的都心の有機的かつ重層的な構成があったという説明もできる」。「東京の下町もこのような重層性がその特質を支えている」。


 現代社会でも「グローバルな市場経済公共投資が牽引し、その活動の場として都市空間が構成され、そして、その狭間に生業的な、そしてネットワーク的な支え合いの経済が現存して、人間的で持続可能な都市空間を創りだしていた」。


 しかし、「生業的な店舗やオフィスは急速にその存在基盤を失いつつ」ある。


 それは家業の人気衰退とか、国際競争、巨大流通システムといったハードな空間整備では手が届かない問題も大きいのだが、「グローバル経済化が進む中で、その覇者に都市空間が占有され」てしまったからだ。都市空間の奪還は、「連帯経済、社会的経済」など、まさに「社会経済運営の第3の道」の復興と平行してなされなければならない。


 すなわちグローバル競争の覇者に空間を牛耳らせていたら、支え合いの経済が開花することも難しい。ハードだけが先行しても何にもならないが、支え合いの経済はハードな都市空間の再生をも必要とするだろう。なぜなら「都市の空間構成は、まさに社会経済システムを映す鏡なのだ」から。「そして、その空間が基盤となり社会の活動を支える」からだ。


 ハードな空間となんらかの関わりを持つまちづくり市民事業が、時代に求められれる所以である。

6-3 新しい公共と市民事業


 「市場経済と政府統治機構の間に、「新しい公共」の担い手をとりあえず育てることが社会的合意になっているのは間違いない」。


 私(佐藤)は「政府統治のイメージの強い「都市計画」、民間による開発利益の創出という役割を逃れられない「都市開発」、そして地域で閉塞的になりがちな「まちづくり」をつなぐものとして、まちづくり市民事業を位置づけたい」。
 「私は今の時点で、見えてきたまちづくり市民事業の実態を共通認識として、その可能性を追求すべきであると考える」。


 以上、長くなってしまったが佐藤さんの序論を紹介した。
 もっと手短にまとめたいところだが、これでも相当無理しているので、佐藤さんの考えを正確に伝えられたか、心許ない。


 本が出たときには是非、読んで頂いて真髄をつかみ直して頂ければと思う。
 明日は若干の感想を付け加えて終わりたい。


○特報
 佐藤滋さん「まちづくり市民事業」京都セミナー決定!。4月22日。
 早稲田セミナーは4月8日で準備中。
 5月17日にはこの本のなかで「第9章 まちづくり市民事業の到達点〜山形県鶴岡市中心市街地」「11 章 まちづくり市民事業における担い手の役割〜専門家の連携と職能拡大の必要性」を担当された川原晋さんを京都に向かえてのセミナーも行います。


○参照
・佐藤滋さんへのインタビュー
原敬編著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に寄稿された「地域協働の時代の都市計画――まちづくり市民事業からの再構築」についてお聞きしました。
 http://www.gakugei-pub.jp/chosya/012sato/s_index.htm


○佐藤滋さんの本


原敬、佐藤滋他『都市計画根底から見なおし新たな挑戦へ


佐藤滋編著『まちづくりデザインゲーム


○季刊まちづくりの関連特集
「まちづくり市民事業と中心市街地活性化」『季刊まちづくり 21


「まちづくりから地域マネジメント戦略へ」『季刊まちづくり 29