まちづくり市民事業(3)

2-4 まちづくり市民事業のミッションと5つの類型

 まず、まちづくり市民事業の主なミッションとして
  ・地域に安心して住み続けるための共同の住まいづくり
  ・町並み形成や歴史的建築の保全・活用
  ・市民活動やまちなかの拠点形成
  ・共用空間(コモンズ)の創造・維持改善
  ・福祉や就労支援のための場の形成
  ・安心・安全な生活環境の形成
  ・都市型観光などに関わる環境整備
  ・アート・芸術活動に関連する事業
を佐藤さんは上げている。


 だが、これがミッションだろうか。


 まちづくりのミッションは、たとえば人びとが幸せに生きていける地域にすることだろう。


 だから、これらはまちづくり市民事業の取り組む分野、対象と解するほうが良さそうだ。たとえばクラシック音楽の普及のために全国で格安のコンサートを開いている団体などには、地域へのこだわりはない。立派な活動だが、佐藤さんが言うまちづくりに結び付けることは難しい。


 どういう分野で活動するかよりも、むしろそれらを先に紹介した〈もっと先のビジョン〉へ至る道筋として位置づけているかどうかが、より重要ではないか。


 その点はまた論じたいが、まずは先を急いで、五つの類型を見てみよう。


○1:協働の支え合い事業型
 〈地域に住み続けたい〉といった願いを実現するための事業が典型だ。いかにも佐藤研という感じの事業とも言える。
 本書事例編では土沢や武生の取り組みを紹介している。


 興味深いのは、「ことさら『まちづくり市民事業』と言わなくても、市民が市民的立場で民間事業として進めているものが、連鎖して全体としてまちづくり市民事業の集積の成果を上げ」るものもあると佐藤さんが指摘している点だ。


 本書事例編では小樽の民間による木骨レンガ倉庫群の保全再生がそうなのだが、これらには、ミッションが先にあってという訳では必ずしもなく、ビジネスチャンスと捉えて始まった事業もある。しかし〈もっと先のビジョン〉が暗黙のうちに共有されているため、事業の成果がまちづくりへの貢献に繋がっている。


 支え合いというイメージからは遠いが、京都の町家レストラン等による町家再生なども民間の動きが、市や市民の〈もっと先のビジョン〉と合致して共鳴したという点で典型だろう。


 だが他の事例がいかにも「まちづくり」という取り組みであったり、社会的な使命を掲げた取り組みであるのに対して、だいぶ違う。
 これについては後でもう一度考えてみたい。


○2:まちづくり会社事業型
 長浜の黒壁、高松丸亀町などが典型だ。本書事例編では「ふらののまちづくり会社」を紹介している。また佐藤さんが中心となってまとめた『季刊まちづくり 21〜特集「まちづくり市民事業と中心市街地再生」』では「NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会」を紹介している。


○3:テーマ型まちづくり活動発展型
 「障害者の就労支援、あるいは社会的に排除された若者への教育の問題など、特定のテーマを持った活動団体が、単独であるいは地域社会と連携し、まちづくりに関わりながら具体的な事業や活動拠点形成等の事業に乗り出す例」。


 ただ、これについては環境問題や町並み保全活動などの場合は、ハード面でも面的に広がりやすいと思うが、就労支援等の場合はそうでもないかもしれない。しかし海外では失業者の職業訓練を兼ねて、自分たちの手で自分たちが住む住宅をつくるという事業があると聞いたことがある。これなどは、ハードなまちづくりそのものとの連携だ。
 また、就労や教育問題を〈もっと先のビジョン〉に含まないまちづくりは、今やあり得ないだろう。


○4:社会的使命事業化型
 「達成したい社会的ミッションがあり、これを実現するには単純な公共事業ではその必然性が少なく、かといって市場での事業採算性は弱く、このような社会的ミッションに同調し、支持をする志のある市民とその出資により事業化を図ろうとするもの」。


 これはコミュニティ密着型のソーシャル・ビジネスという感じだ。


 本書事例編では、NPO城下町トラストによる空き家を活用した短中期滞在型住宅(皓鶴亭)の整備と経営、高齢者向け賃貸住宅クオレハウスのLLP、合同会社(通称LLC)による建設運営等、多様な事業が連鎖している鶴岡の例を詳しく紹介している。


○5:公益・共益法人展開型
 既存の社会福祉法人生活協同組合が高齢者住宅を建設・経営するといった例。
 佐藤さんは『季刊まちづくり創刊号』で紹介したNPO福祉マンションをつくる会の「かんかん森」などを例にあげて、「地域との連携・地域への貢献を目指したまちづくり市民事業と言えるが、必ずしもこの点はうまく機能していない」と指摘している。


 一方、立命館の乾さんの論文や木下斉さんの講演で知ったのだが、このような例としては鶴岡の庄内医療生協が注目株だそうだ。

 診療所・クリニック、介護事業所、そして更には高齢者住宅事業など 収益・非収益事業をうまく組み合わせて『いつまでも住み続けられる地域づくり』に不可欠な事業に取り組んでいるという。


 また阪神淡路大震災福祉施設を建設し、同時に地域の見守り役(シルバーハウジングへのライフサポートアドバイザーの派遣)を引き受けた芦屋きらく苑も思い出す。あれは感動的だった。
 介護や居住を含めた地域医療の取り組みは、これからのまちづくりの有力な担い手になりそうだ。


庄内医療生協事業案内HP
http://www.turuoka-kyoritu-hp.or.jp/jigyou/
あしや喜楽苑
http://www.kirakuen.or.jp/jigyo/ashiya/contents.html


○若干の疑問

 まちづくり会社事業型や公益・共益法人展開型は主体による類型で、分かりやすい。
 「テーマ型まちづくり活動発展型」と「社会的使命事業化型」はどこが違うのだろうか。両方ともテーマ(社会的使命)の実現のための取り組みが、まちづくり市民事業につながっている例だが、前者が長い活動を経て拠点形成等に結びつく例、後者は、思い立ってLLP等の組織をつくって取り組む例だろうか。


 「協働の支え合い事業型」は、他の四類型の基盤でもある形だという気もする。



○参照

・佐藤滋さんへのインタビュー
 蓑原敬編著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に寄稿された「地域協働の時代の都市計画――まちづくり市民事業からの再構築」についてお聞きしました。
 http://www.gakugei-pub.jp/chosya/012sato/s_index.htm


○佐藤滋さんの本
佐藤滋編著『まちづくりデザインゲーム



○季刊まちづくりの関連特集
「まちづくり市民事業と中心市街地活性化」『季刊まちづくり 21

「まちづくりから地域マネジメント戦略へ」『季刊まちづくり 29