まちづくり市民事業(1)

 今、早稲田大学の佐藤滋さんを中心に『まちづくり市民事業』という本を書いて頂いている。昨年の12月後半は、この本の原稿の詰めで、日々、メールが飛び交った。


 佐藤滋さんには「いつも、こんなに色々と注文をつけるの?」と聞かれてしまった。
 正直なところ、そんなことはない。珍しく意欲的で壮大な試みであり、それだけに特に寄稿者の間でのちょっとした乱れが、読者を混乱させかねないものだったので、つい力が入ってしまった。


 これと、あれはどういう関係ですか?といった僕の注文で、執筆の方々には大変苦労いただくことになった。それが一歩でも、その「壮大な試み」が読者に伝わることにつながっているとしたら、編集者冥利に尽きる。



 それはさておき、まちづくり市民事業とは何か?。
 端的に言えば、自分たちで事業を立ち上げ、運営し、持続できるだけの利益をあげならが、まちづくりを進めていこうというものだ。

 行政の事業や補助金に頼ってまちづくりを進める事の限界は、だいぶ前から指摘されていた。ではどうするかというと、たとえば、採算性をきちんと確保して、まちづくりに役立つ事業を進める。あるいは収益性のある事業を行いながら、赤字にならざるを得ないまちづくり部門を支えるといった姿が思い浮かぶ。


 市場経済と政府セクターにほころびが見え始めはじめ、それらに頼ったまちづくりが破綻したいま、成長してきた市民自らのまちづくりが、いよいよ事業を企画・実行し運営するという段階に到達しつつあるというわけだ。


 そのうえ、佐藤さんは、さらに先のステップを構想されている。
 それは地域マネージメントの主体を生み出すこと。それも単に個々のまちづくり市民事業が直接関わる地区レベルではなく、まちづくり市民事業群の連携で都市圏レベルのマネージメント主体を生み出していくことにまで話が及ぶ。



 アメリカのCDCやイギリスの開発トラストなど、まちづくり市民事業の先進事例(文献1)の紹介は90年代後半から盛んに行われた。
 長浜の黒壁とか、川越の蔵の会とか、先駆的事例を紹介する論文も多い。
 またTMCとかBIDといった海外の成功事例を範として地区のマネージメントを論じる議論(文献2)もあるし、いくつかは実際に取り入れられ、なかには成功した事例も出てきている。



 しかし、日本で起こっている事象、自らも参加した事業から地域マネージメントのありようまで、大きく論じ、都市圏レベルの枠組みを組み立てようという取り組みは、ほかにはないのではなか。


 以下、佐藤さんの議論(序章)を詳細に紹介しよう。
 だたしこれから校正をつくり、著者の朱入れがあって確定していくものだから、最終形ではない。だから細部は変わるかもしれない点は頭に入れておいてほしい。

1 まちづくり市民事業誕生の背景

 「序章」で佐藤さんはまちづくり市民事業について、より詳しく、多角的に検討している。


 なぜ、まちづくり市民事業が求められるようになったのか。
 その大きな社会的背景として、最初にあげられるのは住環境改善などから生まれてきた「まちづくり」の流れと、それらの「いっても行政頼み」という限界を突破しようとする動きである。


 次に民活、規制緩和に代表される都市開発路線の失敗、ないし限界だ。これはどう好意的評価しても市場性のあるところでしかできず、荒廃した一般的な市街地に対しては無力だった。では、どうするのか?が真剣に考えられるようになった。


 そして最後が一度下火になっていた「スモール・イズ・ビューティフル」等の思想が、地産地消スローフード等の形で息を吹き返していることである。それは市民感覚にあった市民事業への期待を生み出している。コミュニティ・ビジネス、ソーシャル・ビジネスの胎動も並行して起こっている。


 これらの動きが重なり合うところから、新しい潮流が生まれつつあるという。


 「NPO法人社会的企業など「新しい公共」を公共政策実行のパートナーとして位置づけ、自主的な活動により、きめの細かい本当に必要とされている需要に対応」しようという社会経済運営の第三の道が、いまようやく真剣に求められるようになっている。その先に、まちづくり市民事業が見えてくると佐藤さんは主張している。


 では、そのまちづくり市民事業とは何かを、明日、見てみることにしよう。



○参照


・佐藤滋さんへのインタビュー
 蓑原敬編著『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』に寄稿された「地域協働の時代の都市計画――まちづくり市民事業からの再構築」についてお聞きしました。
 http://www.gakugei-pub.jp/chosya/012sato/s_index.htm


○佐藤滋さんの本
佐藤滋編著『まちづくりデザインゲーム


○季刊まちづくりの関連特集
「まちづくり市民事業と中心市街地活性化」『季刊まちづくり 21

「まちづくりから地域マネジメント戦略へ」『季刊まちづくり 29



 

○文献1
西山康雄、西山八重子著『イギリスのガバナンス型まちづくり―社会的企業による都市再生


○文献2
小林重敬編著『エリアマネジメント―地区組織による計画と管理運営