『季刊まちづくり28号』発行間近(1)


 8月初旬ですが、八甫谷氏が制作・編集し、学芸が発売している『季刊まちづくり』9月1日号の校正を読みました。
 もう印刷は終わり、9月1日には発売です。
 ところで季刊まちづくり、来年の春で30号ですが、このままでは31号以降の継続が難しくなっています。
 というわけで、秋のキャンペーンを始めました。
 HELP!って感じです。また少しお得になっています。ご覧下さい。

景観法と地域づくり

 今回の特集は『景観法と地域づくり』。
 最新情況と課題を俯瞰する四つの寄稿と、八つの事例報告からなる力の入った特集だ。


 国土交通省景観・歴史文化環境整備室の原田佳道さんの原稿によれば、現在、年間50から60の自治体が景観行政団体になっており、2009年9月のアンケート調査によれば、691団体がすでになっているか、または今後、景観行政団体になりたいとしているという。

 また景観計画を定めたのは2010年6月時点で233団体だが、2012年度末までに500を越える自治体で策定されそうだという。

 そんなに流行っているのか。
 補助金が出る訳でもない計画や規制に、自治体がそんなに熱心なのは、良い景観、風景のなかで暮らしたいという市民意識が強くなっている証拠だろう。まずは、目出度い。


 原田さんの原稿でも、事前協議制度の活用と広域景観への取り組みが、課題として取り上げられている。
 ただ、法律に位置づけられたことにより、事業者が指導にしたがってくれるようになったという成果も聞かれるが、実際に成果が面レベルで見えてくるには時間がかかり、また法では規定していない部分での独自の取り組みが大切だとされている。


 関連して根本的な考え方を論じた久隆浩さんと北村喜宜さんの寄稿が、対照的で面白い。


 住民参加に取り組み、近畿大学理工学部から総合社会学部に移ったばかりの久さんは、法の効用を認めつつも、市場や権力といった自分以外のものに調整を委ねようとする近代精神の限界を自覚し、「自らも関わり、努力を積み重ねながらよりよい社会をつくり」だすことが重要だと言う。


 だから「地域の環境をよくする取り組みのなかで、景観にも目を向ける、また、景観を良くする事によってまちの環境そのものを良くする」といった景観まちづくりが大切だとし、法律の一部を委任条例が担うという従来の発想を逆転し、都市景観条例の一部を景観法が担うという箕面市での使い方を紹介している。


 一方、上智大学法学部の北村さんは、景観法が国法である以上、避けがたく持っている「全国画一性」を、いかに乗り越え、地域に適合させるかを、法学の立場から示されている。

 たとえば、こんな案件にたいして審査期間の30日はいかにも短いといった場合に、スムースにこれを60日にするにはどういう仕掛けが必要か。また二重行政のそしりを受けることなく、事前協議を行なうにはどういう考え方がありうるか。景観地区では景観計画の規制が抜けてしまうという法律のあり方が困るとき、どうするか。景観地区内の工作物の高さ規制を認定の対象にできるか等を説明されている。


 両者に共通するのは、自治体がいかに法律を使いこなすか、ということだ。
 それは大阪大学の小浦久子さんが書かれた芦屋の事例でより鮮明になっている。

芦屋のマンション、不認定

 芦屋では2010年2月、5階建のマンションが景観法による市長の認定が得られず、建設できなくなった。
 原田さんの先の寄稿では、2009年度までに景観計画に関わり届け出られた件数が2万4611件。そのうち基準に反しているという理由で勧告を受けたのは108件(6団体)のみで、変更命令にいたっては実績ナシという状況のなかで、「不認定」は衝撃だった。


 小浦さんによると、問題のマンションは、普通の戸建住宅地に幅41mの壁面を立ちあげる計画で、しかも南側隣地境界とは1m程度のアキしかないものであったので、景観地区の大規模建築物の形態意匠基準のうち位置と規模に関する項目基準の3「周辺の景観と調和した建築スケールとし、通りや周辺との連続性を維持し、形成するような配置、規模及び形態とすること」に適合しないと判断されたのだという。


 このような決定ができたのには、一つは議会や市民の共感が大きかったからだと言う。 いかに制度が精緻につくられていても、議会や市民の支持がなければ、続かない。


 そして北村さんが述べているような法律の技術、都市計画の技術を駆使して、場所の特性に応じた大規模建築物の工夫のあり方を、位置や規模、外構なども含めて判断し、認定できる仕組みが作られている点が大きい。
 さきほどの「景観地区の大規模建築物の形態意匠基準のうち位置と規模に関する項目基準」があったからこそ、ゆらぐ事がなかったのだろう。


 なにも不認定を出すのが目的ではないが、景観を理由に拒否されることもあるのだと知らしめたことは、大きい。

続く


○アマゾンリンク
『季刊まちづくり 28』(2010.9)