コモンズの大江正章さん

梓会出版文化賞を受賞


 大江正章さんと言えば、岩波新書『地域の力−食・農・まちづくり』の著者だ。
 ジャーナリストだと思っていたのだが、出版社「コモンズ」の代表が本業だそうだ。農や食の本が多いが、上岡直見『高速無料化が日本を壊す』や平竹耕三『コモンズとしての地域空間』など、著者やテーマが僕たちと重なることもある。


 そのコモンズが第24回梓会出版文化賞を受賞された際に『出版ニュース』に寄稿された文を読んだ。


 創業は1996年。難関の取り次ぎ(本の問屋さん)との取引は、農文協の営業部長さんの紹介で、スムースにはじめられたという。業界を知らない人には信じられないだろうが、普通は取引をしてもらうのに何年かかるか分からないので、最低の条件だったそうだが、これは普通のならあり得ないほどの幸運だ。


 創業にあたってはコモンズ債という債権を一口3万円で発行されたという。「返す目処は当分ありません」と断った上だったが、約70人の方が賛同して下さったそうだ。
 もちろん、複数口の人がいたとしても数百万にしかならない。いくらなんでもそれでは会社を回していけないだろうが、著者や支援者と一体感を持てる魅力的な手法だ。


 創業以来のモットーは書店営業を大切にする、原稿は入稿までに最低2回、初校時にも2回読み、著者と丹念にやりとりする。そして何より出版点数を自制し、そのかわり専門書ではたとえ300部でも増刷する。


 一方、直販を重視する。電話がたびたびかかってきて仕事を中断しなければならず、有り難いけれども辛いというが、おろそかにしない。それどころか、たとえば集会や講演会などに出向いての販売を自らこなし、生協や有機野菜など共同購入グループとも関係を強めているという。後者は納品価格は多少安いそうだが、電磁波や身体に優しい料理などぴたっと来るテーマの本は、書店と比べて圧倒的な売れ行きだそうだ。


 地道を絵に描いたような話だが、『環境ホルモンの避け方』『僕がイラクに行った理由』などタイムリーなテーマに緊急出版的に取り組み1万部を超えた本もあるという。
 「暮らしを変える実用書」という今でも3000〜3500部を刷れるジャンルを持っていることも持続できる秘訣だろう。


 これだけの仕事をして、そのうえ取材をして新書まで書いてしまうのだから、凄い。おおざっぱな指示でも思い通りに仕上げてくれる印刷所との良好な関係があることが大きいと書かれているが、それにしても、やっぱり凄いと思う。


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大江正章著『地域の力―食・農・まちづくり (岩波新書)

上岡直見著『高速無料化が日本を壊す

平竹耕三著『コモンズとしての地域空間―共用の住まいづくりをめざして