山崎亮、長谷川浩己編著『つくること つくらないこと〜町を面白くする11人の会話』

 この本はランドスケープデザイン誌に2年間にわたり連載された「状況のつくり方」という連載をまとめたものだ。

 「風景をデザインするとはどういうことなのだろうか」。ランドスケープデザイナーでありながら「デザインするも何も、風景は既にそこにあるじゃないか」と考え続けていた長谷川さんと、「地域に住む人たちの行動が変わらなければ風景をデザインしたことにはならない」と考え試行錯誤していた山崎さんが出会い、「お互い悩んでいるのだから、誰か指南役をつけたほうがいいだろう」ということでゲストを迎えて会話をされた。「つくることと、つくらないことのバランス」「なにもしない、さわらない」というオプション。それは分かりやすく言えば「ハードとソフトのバランスのあるデザイン」だが、もっと深く、場所に関わることへの憧れと恐れも感じさせる。

 ゲストには、東京ピクニッククラブの太田浩史さん、ランドスケープアーキテクトの廣瀬俊介さん、デザイナーのナガオカケンメイさん、東京R不動産の馬場正尊さん、働き方研究家の西村佳哲さんらが並ぶ。ファンにはたまらない人選だろう。
 そういう流れのゲストのなかでちょっと異質で、かつ的を得ているのは広井良典さんだ。
 広井さんは『都市計画 根底から見なおし新たな挑戦へ』でも「コミュニティ感覚を醸成するような空間という発想」が大事だと書かれていた。
 同書を出版したとき、寄稿くださった都市計画の大先生方に、この点についてもっと議論を深めて貰える機会をつくりたかったのだが、震災で機会を逸してしまった。それだけに広井さんをゲストに迎えての対談は興味深く読ませてもらった。


 ところで、これは「状況のつくり方」という連載だった。連載の最終回はランドスケープデザイン誌副編集長の尾内さんが司会をつとめた対談だが、ここでも尾内さんは「もともとこの鼎談を始めるきっかけは、山崎さんと長谷川さんが初めてお会いしたときに、「状況」というテーマで話が盛り上がり、これをもとに何か企画できないかと考えていったことでしたね」と話している(出典:2011年3月22日 「ランドスケープデザイン」編集部のブログ http://marumold.exblog.jp/12308790/)。
 それがどうして『つくること つくらないこと』という本になるのか。これについては、尾内志帆さんの設定で初めて二人が出会った時の山崎亮さんのブログが興味深い。
 「長谷川さんはデザインについて悩むなかから「状況をつくることが目標だ」という考え方に行き着いたという。つまり、僕も長谷川さんもプロジェクトに対して同じ目標を掲げていて、一方はそれをソフトの展開で達成しようとするし、一方はそれをハードの設計で達成しようとしているんだということがよく分かった」(出典:studio-L blog 2009年2月24日 http://studio-l-org.blogspot.com/2009/02/blog-post_24.html)。
 つまり「状況をつくること」という目標をタイトルにしたのが連載で、ハードな設計(つくること)とソフトな展開(つくらないこと)に着目したのが本の書名だ。また「状況をつくる」を分かりやすく言い換えたのが「町を面白くする」という副書名ということかもしれない。
 雑誌連載は雑誌という傘のもとで、雑誌の読者が相手だから「状況のつくり方」とあれば「ランドスケープデザインにおける状況のつくり方」だと分かるけれども、本は書店でどの棚に並ぶかも分からない。そこをどうするかを連載の書籍化を企画した井口さんが随分悩んでいた。結果的に、良い書名になったように思う。どうだろうか。

(おわり)

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つくること、つくらないこと: 町を面白くする11人の会話

都市計画根底から見なおし新たな挑戦へ