山崎亮『コミュニティ・デザイン』(3)


『撤退の農村計画』

 昨年の秋、スタッフの中木さんが取り組んだ『撤退の農村計画』(2010)でも山崎亮さんに原稿書いていただいた。


 いま、東日本大震災原発事故が重なり、避難が喫緊の課題になっている。寄稿いただいた「仮設住宅の入居方法に学ぶ集落移転」は阪神大震災の教訓から、集落の撤退においても、コミュニティ単位の転居を薦めるものだ。


 しかしコミュニティ転居は容易ではない。
 ほんとうに村を再生できないのか、まだまだ大丈夫ではないかと議論が纏まらないうちに、一人欠け、二人欠けと個別移転が進み、気づけば数軒しか残っていない、という事態もありうる。


 それでも良いと住んでいる人が思うなら、ダメだとも言えないが、希望的な観測のもとに何もしないまま、結果的にそのような事態になるのは不味いだろう。


 そういう事態を避けるために必要とされる集落診断士についても書かれている。
 山崎さんの経験によれば、人口や経済指標からみて厳しい集落と、住民の主観的な評価は必ずしも一致しないという。
 だから外形的な調査だけで「もう撤退したほうが良いのでは」というのは、的はずれな場合もある。


 そこで集落に密着し、支援に入っている集落サポーターとは別に、少し距離をおいて集落の客観的なデータと主観的なデータを把握する。そして住民と共にハザードマップや集落カルテを作り、シミュレーション等で何も手を打たなかった場合の集落の将来を明らかにし、むらづくりワークショップを開催して住民と共に話し合うという職能が必要だという。


 『撤退の農村計画』には反発もあった。
 僕も、集落を人間になぞらえれば、最後まで生かそうと努力するのが医者のつとめであり、安楽死を薦めるようなことは許されないのでは、という迷いが消えない。


 だが、山崎さんは、集落の人達はきちんとしたデータを自身で確認すれば、かならず彼らにとって最善の選択をすると信じている。そこには、人間への熱い信頼がある。回の災害からの復興においても、それは、もっとも必要とされることだと思う。


続く


○アマゾンリンク

林直樹、齋藤晋、江原朗、山崎亮ほか著『撤退の農村計画―過疎地域からはじまる戦略的再編


○「撤退の農村計画」セミナー報告(10年11月12日)
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1011tettai/report.htm