『季刊まちづくり28号』発行間近(2)

景観法を生かした最近の取り組みから何を学ぶか

 芦屋をはじめ、自治体の積極的な取り組みがはじまっている。


 そのなかで一番残念なのは、事業者や設計者が明示的な基準を求め、「基準に合っていれば良いんでしょ」という姿勢に留まっていることだと小浦久子さんはいう。行政担当者すら、揉めごとを嫌って、明示的で裁量の範囲が少ない基準を欲しがることもある。


 また、小浦さんは書いていないが、僕は住民も似たようなところがあると思う。こちらは逆に、基準に合っていても一切ダメとなりがちで、基準のベースにいかに良いものをつくるか、という発想にはならないことが多い。


 これは冒頭の久隆浩さんの問題意識に通じるところだと思う。調整を法律に委ねるだけではダメだということだ。


 なお井上赫郎さんが寄稿した「景観市民ネットワークの活動」には、上記のような断固反対だけの住民運動ではなく、都市計画道路への対抗案の提示が行政との協働に結び付き、森への影響が押さえられた例も報告されている。


 また鎌倉では景観地区を定める時、高さ制限を強化せよとの意見が続出したそうだ。
 ようやく、いろいろな事が動き出している。

都市計画の課題

 とはいえ、景観法を巧く使えばそれで済むかというと、疑問がない訳ではない。
 芦屋の例でも、一番奇妙に感じるのは、問題の地区が第一種中高層住居専用地域、容積200%であることだ。
 確かに、都市計画法建築基準法には「第一種中高層住居専用地域では中高層集合住宅が望ましい」とは書かれていない。


 だが、普通に考えれば「中高層住居」と書いてあるのだから、3階から20階ぐらいまでのマンションが核になって街をつくろうという地域だと受け取れる。

 不動産屋さんに「ここは中高層住居専用地域だからマンションに最適ですよ。国も自治体もそう言っているのですから」と言われて、信じて大金を投じたら、いったいどうしてくれるのだろうか。

 中高層で15mの高さ規制というのも、変だ。いまどき、15mで中高層というだろうか?



 確かに、マンションは容積不算入があるため、他の建築物と比べて遥かに大きくなる。だから、敷地に余裕がないと、壁面がど〜んと隣地や道路に迫ってくることになる。
 それが、周辺と不調和をおこしやすい。
 ならば、容積はそのままでも「低層戸建住居優先地域」ぐらいに名称を変更し、マンションの容積不算入の適用ナシとすべきではないか。

 京都市が斜線制限の緩和規定を適用しないとしていたが、同様の工夫ができないのだろうか。名称ぐらい変更しても、怒られないだろう。(だめかなあ)。


 法学も行政現場も知らない机上の空論だとは思うが、「低層戸建住居優先地域」であれば、聞いただけでどんな地域を目指しているか分かる。そういった分かりやすさ、規制の整合性を実現して欲しい。
 それが出来ない、あるいはしなくても景観法で間に合うのだとしたら、都市計画は要らない。

乞うご期待

 事例の中で、ちょっとびっくりなのが、黒松町の取り組み。
 住宅の色彩は23色の指定色に限定!?するという。
 思い切ったというか、単純だなあというか・・・。よくまあ反対が出ないものだと思うが、以前からの取り組みに強制力を持たせただけだそうだ。べつにまあ、23色もあったら十分か・・。
 それに環境基本計画と両輪となっている点も好感が持てる。


 なお、季刊まちづくり28号の目次は次の通り。
 http://www.gakugei-pub.jp/zassi/


 このなかでは森まゆみさんへの西村幸夫さんのインタビューが、編集者という稼業の僕にとっては考えさせられる内容だった。
 売れない!、次は電子版が襲ってくる!と浮き足立っている出版界が忘れている原点が垣間見えた。


 また福井市田原町の取り組みも良い。コミュニティ・マネージメントの好例だと思う。


 五十嵐敬喜さんと野口和雄さんは、神野直彦さんを座談会にひっぱり出して「現代的総有」と『「分かち合い」の経済学』を論じている。
 これについては発売を待って考えてみたい。

(おわり)


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『季刊まちづくり 28』(2010.9)