PPS著『オープンスペースを魅力的にする』

W.H.ホワイト


8月14日に紹介したパブリックスタイルで思い出したのだが、公共空間の利用についての研究と実践では、W.H.ホワイトが有名だ。


 ホワイトとの出会いは学生の頃だった。
 僕はバイト先で『LDK研究』を手伝った。リビングに何秒かに一こまを撮影するタイム・ラップス・ビデオを据え付けさせていただいて、2週間ぶんだったかの記録から、人々の居間での過ごし方を明らかにするというものだった。
 良く覚えているのは、ソファーに座っている人はまずおらず、コタツに入ってソファを背もたれ代わりにしている人が多かったこと。


 それはともかく、この手法の原型を開発したのはW.H.ホワイトだ。
 彼は街路や公園にタイム・ラップス・ビデオを置き、人びとを観察した。そういう文明の利器がないときは目と手で記録した。そしてどういう空間が使われ、使われないのか、それはどうしてかを究めていった。


 『オープンスペースを魅力的にする』という本には公共空間の「観察テクニック」という節があるが、そこにはビデオを設置しているホワイトの写真が載っている。
 ここには、「行動マッピング」「交通量調査」「経路調査(トラッキング)」「形跡観察」「インタビューとアンケート」が手際よくまとめられているので、公共空間の使われ方を考えたい人の参考になるだろう。


 この本の著者はプロジェクト・フォー・パブリックスペース(PPS)という、ホワイトの流れを汲むNPOで、その使命はコミュニティの核となる公共空間をつくり、活発な利用を促すことである。
 武田さんたちのパブリックスタイル研究所の目的、「自由と責任のあいだに存在し、獲得されるパブリックから生まれる、これからの日本のオープンスペースのあり方を提示するとともに、そこに関わる人々の、生活の質を向上させる」(同NPO、HP)よりもシンプルでエンジニア的といえようか。


 ホワイトとPPSはブライアント・パークの改修設計の成功でも知られている。その成果は同書の解題で加藤源さんが紹介している。


 簡単にいえばニューヨーク公立図書館のそばという好立地にも拘わらず、周囲を鉄製の柵や灌木で囲むといったデザインのまずさで、犯罪や麻薬取引の巣窟となっていた公園を、犯罪者を取り締まることではなく、人びとに利用してもらうことで蘇らせたというものだ。


 「建築家やランドスケープ・アーキテクトによるオープンスペースのデザインは、ほとんどの場合(必ずではないが)、その設計者が信ずることを美しく、魅力的に表現したものになる。それは多くの場合、その空間が持つべき、あるいは支援すべき活動や用途に基づいてはいない。……中略……設計者はコミュニティに生まれたニーズに即し、それを取り込むことによって、その空間をより魅力的にし、見るのも居るのもおもしろいものにできるだろう。なぜなら、そえはコミュニティの人びとに使われるからだ」(p66)。


 このような発想が結実したのが、持ち運びできる椅子だ。それによって公園の利用者は時分が座る場所を自分で決めることができる。当然、盗まれる!という大反対にあったが断固として導入された。少しは盗まれているかもしれないが、使い古されて取り替えることになる椅子のほうが圧倒的に多いという(p121)。


 この取り組みの結果、「コーヒーを飲み、音楽に耳を傾けながらランチを楽しむ近辺の就業者が増え、……中略……今や野外映画会やジャズ演奏、ファッションショーの場であり、複合的な魅力に富んだ都心の公園であり、ミッド・タウンの代表的な屋外飲食空間として親しまれ、利用されている」という(p120)。


 また公園の管理にはNPO法人ブライアント・パーク修復法人があたっているが、BIDを公園周囲の地区に指定し、商業施設1平方フィートあたり16ドルの拠出を義務づけるとともに、キオスクと2つのレストランからの収入、特別なイベントへの公園の貸し出し、市の補助金などで運営基盤を安定させているという。その点、「都市計画に地域マネジメントの主体を位置づける」の参考にもなる事例だ。


 ホワイトは『都市という劇場』(柿本輝夫訳 (1994) 日本経済新聞社)も良いらしい。アマゾンにある解説では「ほどよい雑踏を好む歩行者の習性、座る場所が多いほど心地よい広場、賑わう街に不可欠な大道芸人など愉快な人達-ヒトが集まる街の秘密を探る、16年間の路上観察の集大成」とある。
 読んでみたいが中古で4000円以上もするので手が出せないでいる。


 『オープンスペースを魅力的にする』の最初のほうに出てくる2つの象徴的な写真に添えられているのは、一つはホワイトの「この窓のない大きな壁は組織の力の大きさと人間の小ささを表しており、人間を圧迫している」という言葉だが、もう一つはジェイコブスの「ここに見られるような平凡で、目的もなく、三々五々集まっている人たちも、道ばたで会って会話するなら、街の中での人の生活を豊かにしていく小さな変化を生み出すことになる」という言葉だ。

 そう、使いこなしと言えばジェイコブスの『アメリカ大都市の死と生』も忘れられない文献だ。


 そして最近では鳴海さんの『都市の自由空間』も示唆に富んでいると思う。



 「お金が問題になるということは、一般的に、その仕事が誤ったコンセプトによってなされたことを示している。計画に費用がかかりすぎることではなく、そこを使う人びとが、その場所は自分たちが帰属していると感じ取れないことが問題である。(『オープンスペースを魅力的にする』より)


LDK研究の関連情報
・『生活財生態学−現代家庭のモノとひと』商品科学研究所、CDIに収録、リブロポート、1980
・疋田正博「生活財生態学 −−「生活文化研究の視点と手法から文化ニーズを考える」」
 http://www.cdij.org/pf/seikatu.html


○公共空間の使いこなしに関する参考資料

・プロジェクトフォーパブリックスペース 著、加藤源、服部圭郎、鈴木俊治、加藤潤『オープンスペースを魅力的にする―親しまれる公共空間のためのハンドブック


・W.H.ホワイト著、柿本照夫訳『都市という劇場―アメリカン・シティ・ライフの再発見


ジェイン・ジェイコブズ著、山形浩生訳『アメリカ大都市の死と生


・鳴海邦碩編『都市の自由空間―街路から広がるまちづくり