第3回季刊まちづくり26号読書会(1)


 26号の読書会が開かれた。今回は下記の方々から報告があり、議論された。
 うち提案04と16について報告し、07については別の機会に紹介したい。

・提案04.都市計画に地域マネジメントの主体を位置づける:嘉名光市
・提案16.新しい都市のパブリックスタイルを育む:武田重昭
・提案07.都市の空洞化にどう向き合うか:嘉名光市+山崎義人

提案04.都市計画に地域マネジメントの主体を位置づける

問題提起

 嘉名さんの問題意識は、土地利用が大きく変貌している地区では、従来の都市計画が想定していなかった新たな土地利用が生まれ、周辺と軋轢を起こす。これを都市計画で規制しようにも、地区の人たちの意見集約が難しいという点にある。


 なぜなら、地区には「そのままであって欲しい」という人と、「土地が高く売れて欲しい」という人がいて、それぞれに正義があるからだ。


 その例として宗右衛門町を取り上げて少し詳しく論じられた。
 ここは、昔は大和屋に代表される高級料亭があり、芸者さんもいる遊びの場所だったが、流行らなくなって、アキが増え、無料風俗紹介所が急激に増えた。そのうえ強引な客引きが増え、わずか1キロ程度の道を通り抜けるのに、1時間以上かかるようになり、男でも一人では恐い通りになってしまった(地元の活動が実って、今はそうじゃないと聞いている。念の為)。


 その結果、老舗のお店は出ていってしまった。
 土地の所有者からすれば、「法律は守っている。何が悪い」となるし、「街あってのお店だろ!」と怒る人もいる。これでは、ほぼ全員合意を求める地区計画等の都市計画的な手段は機能しない。


 これに対して宗右衛門町では商店会を中心にさまざまな活動を展開し、強引な客引きや違法駐輪、路上看板などに取り組んでいく。
 現在は宗右衛門町商店街振興組合が中心となり、地区計画を策定するとともに、まちの美化だけではなく、テナントリーシングなども含めたエリアマネージメントを目ざしている。


 だが、この経過を都市計画からみると、幾つかの問題点が浮かび上がってくる。


 第一は、全員同意という壁だ。
 利害が一致しない人たちがいるところで、地区計画にほぼ全員合意を求めることは、ようするに何もするなということに等しいのではないか。
 第二は、違法駐輪にせよ、路上看板にせよ、地区計画等と一体的に議論されている。しかし、これを受け止める都市計画の仕組みがない。


 この点について、アメリカには都市計画とまぢづくりを一体化できるBIDという仕組みがあるという。
 たとえばDUMBO BIDは、テナントリーシング等に頑張っているし、それに合わせた都市計画が提案されている。
 ハーレムの125番街BIDでは、クラブやライブハウスに都市計画上のボーナスをつけるアートボーナス制度が地元の提案から生まれている。
 日本の都市計画では、このような地元のニーズにあった対応ができない。


 日本の地区計画で扱えるのはごく一部に過ぎない。現在の2層制の都市計画に加え、マネジメントを含んだ幅広い領域のローカル・ルールという3層制の仕組みへと都市計画を発展させるべきではないか、というのが嘉名さんの提案だった。

 続いて行われた議論は明日、紹介しよう。


 なお、宗右衛門町については、都市環境デザインセミナーで、まちづくり始動期の2004年と、地区計画に取り組んでいた2007年に、また2009年には『住民主体の都市計画』でいずれも横山あおいさんが報告しているので、是非、それらを読んで頂きたい。

続く


○関連資料

  • 2004年第4回都市環境デザインセミナー記録「宗右衛門町 まちづくりのはじめにあたって」横山あおい(エイライン)ほか
    • 遊歩道完成で予想されるこの界隈の問題について 横山あおい(エイライン)
      昔日の栄光、変わりゆく宗右衛門町 宗右衛門町商店会会長 岡本敏嗣(株式会社福壽堂秀信)
    • 宗右衛門町は風俗店と共存する町 宗右衛門町商店会元会長 江崎政雄(株式会社食道園)
    • もう一度、老若男女が楽しめる街へ おかみさんの会 西村冨子(株式会社大黒屋本店ビル)
    • 遊歩道が新たな繁栄のタネになるように 宗右衛門町商店会副会長 池田博紀(田舎そば)
    • 宗右衛門町のコンセプト作りの難しさ 宗右衛門町商店会事務局 高見幸寿(株式会社ソウルダム)


  • 2007年度第6回都市環境デザインセミナー記録「ミナミはよみがえるのか〜宗右衛門町まちづくり活動の1000日とこれから〜」横山あおい


  • 横山あおい「5−3節 低俗化からの脱出〜歓楽街のまちづくり“大阪ミナミ 宗右衛門町”」『住民主体の都市計画』(2009、学芸出版社


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    ・『季刊まちづくり 26