京都市ジュニアオーケストラ「ショスタコ5番」

 嫁さんがランチ会に行ってしまったので、どうしようかなと迷ったのだけど、行って良かった。元気が貰えた。

 曲目はラフマニノフのピアノ協奏曲2番とショスタコーヴィッチ交響曲5番。ラフマのピアニストは 金子 三勇士 という変わったい名前の若手。日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれ、国立リスト音楽院大学で英才教育を受けたそうだ。
 悪くない演奏だと思ったのだが、後の席のお嬢さん方は、フルートが続いているのに、クラリネットが先走ったとか、細かく指摘しあっていた。


 お目当てのショスタコの5番は、イヤホンではよく聴いているが、生では初めて。思っていた以上に音が豊かで、カラダにびんびん感じる。
 ロシア革命後、不遇だったショスタコーヴィッチの復活第一号と言われる曲だから、そこに革命やスターリンへの恨みが隠されているといった解説を聞いたことがある。本当だろうか。もう一つの代表作レニングラードについても、侵略者・ナチだけでなく、スターリンへの批判も込められているのだそうだ。


 プラウダに徹底的に批判されたというバレエ「明るい小川」を見に行ったときのボリショイの解説を読むと、ナイーブな愛国者っていうか、政治オンチって感じだった。「明るい小川」は楽しければ良いという感じで作ったのに、大飢饉が数年前にあった地方を舞台に設定していたので、党中央が激怒したとか。ボルトにいたっては、仕事中にタバコを吸っていて工場を追放され、あげく工場の機械を破壊しようとする青年を描いている。人民の敵を糾弾するという流れらしいが、タバコ青年の踊りが凄く良い。そりゃヤバイよな。しかも国立劇場でやるか?

 スターリンというと、抑圧というイメージを持ってしまう僕には理解できないが、ひょっとすると30年代前半のソビエトには、自由な表現が政治の介入を招くなんて恐怖はなかったのかもしれない。だからショスタコが例外的に政治オンチというわけではないのかもしれないが、どうだったんだろう。


 ところで演奏会の最後のアンコールでは、のだめのAオケやベネズエラのユースオーケストラのように、立ち上がったり楽器を回したりと楽しそうなパフォーマンスを披露してくれた。
 暗いニュースが多いけれど、こういう輝いている若者たちがいるかぎり日本はすてたもんじゃないという広上さんの挨拶も良かった。
 インフレにすれば万事解決みたいな他人まかせ、神様だよりの言説がはびこる今、頑張っている若者たちの姿が、すがすがしい演奏会だった。

(おわり)

京都ジュニアオーケストラHP
http://www.kyoto-ongeibun.jp/kyotoconcerthall/juniororchestra.php

地点「コリオレイナス」

 「ALTYの空間がグローブ座に変身」という宣伝文句とにつられて、シェイクスピアの最後の悲劇「コリオレイナス」を見てきた。
 音楽劇と書いてあったので、俳優さんが歌うのかと期待していたけど、違った。叙唱、朗唱と訳されるレチタティーヴォとも違って、なんなんだろう、これ。むかしファンシーダンスでみたお坊さんの問答に少し似ているような奇妙な話し方だった。それでも結構聞き取れたので、俳優さんもうまいし、劇場も良いのだと思う。

 なぜ、グローブ座かというと、京都を中心に活躍している「地点」という劇団が、2012年のワールド・シェイクスピア・フェスティバルに招聘され、グローブ座の依頼で「コリオレイナス」を制作・初演し、大喝采を浴びた、その凱旋公演だからだ。
 また、3階建ての円筒形の客席が平土間の立ち見の観客を囲むという空間構造を、座席や舞台の可変装置を使って真似たからだという。

 コリオレイナスはローマの英雄。ローマのために大勝利をおさめ、帰還して執政官になるが、常々民衆に罵詈雑言を浴びせていたことが祟って追放される。そして宿敵と手を結びローマを攻め落とそうとするが、母に泣き落とされ停戦。宿敵の放った刺客に殺されるという物語だ。
 ブレヒトシェイクスピアの原作を改編し、コリオレイナスをナチの独裁者と見立て、民衆の抵抗運動として描いたという。最近は、民衆の身勝手さを問いかける演出が多いとガイドに書いてあった。今回のコリオレイナスは、まるで人格が分裂しているというか、支離滅裂な戦闘マニアのような印象だった。
 ワイフ曰く、久しぶりに極めつけの変なものを見せられたとのこと。でも、見入ってしまう場面もあったそうだ。

(おわり)

○アルティのHP
http://www.alti.org/at/vol-5.html

椎川忍『地域に飛び出す公務員』(2)

頑張っている緑のふるさと協力隊

 もう一つ、民間のNPO法人地球緑化センターが20年前からはじめて大きな成果をあげたという「緑のふるさと協力隊」についても紹介しておこう。

 農山村に希望者を1年間派遣するという制度だが、生活費の支給は月5万円程度と、3年間、約15万円の報償の地域おこし協力隊よりずっと条件が悪い。自炊生活が前提で、地域住民と交流しながら地域との繋がりが深まっていくような活動を行う。特に地域の生活慣習や生活様式を受け入れ謙虚な姿勢で活動することが求められているという。
 最終的には地域に受け入れられ定住することを目ざしているが、いままで4割もの人たちが定住しているという。
 地域おこし協力隊の創設の際には、この制度を参考にされたそうだが、協力隊は一期生が任期を終わって3割程度の定住率だという。


 新規就農者の定着率が1割程度と言われるなかで、3割でも大成果と言えるし、この結果だけで、地域おこし協力隊と緑のふるさと協力隊の優劣を比較しても仕方がないが、条件が厳しいだけに参加者のモチベーションが高いのかもしれない。
 また地域おこし協力隊には隊員への報償のほか、研修費150万円が国から受け入れ自治体に支払われるが、緑のふるさと協力隊にはそういう支援はない。だが、NPO法人地球緑化センターと受け入れ自治体は綿密な連絡をとりあい、個別に手づくりのプログラムをつくって支援しているという。

 島根県会議員の三島おさむさんのブログで、地域おこし協力隊の制度が批判されたいた。
 いわく、受け入れ自治体に「何のプログラムもない。手を上げた地域、その地域の要請のある仕事をしてもらう。多くは、高齢化で人手がないので草刈や農業の手伝い」。「募集は総務省のお題目がそのまま掲載され、面接でもそんな話は」しない。
 「ひたすら草刈り。そこで、地域おこしという大きな課題にオフに取り組め」。「僕(三島)なら、さっさと尻を捲くるなあ。でも、それをしないところが今の若者? 正直、彼らはすごいと思いました」。
http://omis24.blog.fc2.com/blog-entry-196.html


 『僕ら地域おこし協力隊』はがんばっているところを取材し、収録した。だが、受け入れ側の行政ががんばらないと失敗するという話は斉藤さんに語って頂いた。
 人生の貴重な時期に3年間、地域で頑張ろうという気持ちをもって来た人をないがしろにするような地域には未来がないと思う。

緑の分権改革の行方

 ところで『緑の分権改革』という呼び名は民主党の原田総務大臣がつけたものだから、きっと消えるだろうが、その中身も全部破棄されるのだろうか。実は中身は自民党の時代から徐々に築かれてきたものもあり、地域おこし協力隊も民主党になる前に発足している。
 だが、自民だ、民主だという以上に、「あるものを生かす地域力創造」という自らが自らの力でできるミクロな話の積み重ねで経済・社会を良くしていこうという発想と、インフレ・ターゲットと公共事業の大拡大で成長をしようというマクロな話を最優先する思想では、本質的に真逆だという気がする。

 必要なインフラの維持・補修は喫緊の課題だし、公共事業の拡大が無前提に間違っているというつもりはないが、ようやく芽生えだしてきた自立の芽が摘まれ、他人任せの風潮が蔓延するのだとしたら、残念でならない。当面はインフレ期待で盛り上がるのか、他人頼りではなんともならないと、さらに多くの人が本気になるのか。

 『緑の分権改革』を出版したときの椎川さんへのインタビューのなかでも、緑の分権改革の調査事業が100%国費の有り難い補助金と受け止められているフシがあり、制度を変えるための提案をたくさんしてもらわないといけない時期に来ていると指摘されていた。
 さきほどの三島さんの批判にもあるように、人間、やすきに流れやすいということは確かだ。
 
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地域に飛び出す公務員ハンドブック

緑の分権改革: あるものを生かす地域力創造

僕ら地域おこし協力隊: 未来と社会に夢をもつ

○椎川さんインタビュー
http://www.gakugei-pub.jp/chosya/042siika/index.htm

遅咲きのヒマワリ(10) 僕ら地域おこし協力隊

 いよいよ10回目。ちょっと意外なオチでした。真木よう子、かっこ良かった。


 まず、松本弘樹は明快。リハビリの資格をとることに決めて専門の学校に入学する。二階堂に言い寄ったことも、昔に戻れたら良いという思いからで、そんなのは勘違いだったと一刀両断。決意を聞いた大河内さんも「もう二度と世話にならないから、頑張ってこい」と嬉しそうだった。
 二階堂さよりは旦那と向き合うことに。今は、子どもがいるからいいが、いなくなったら二人でいることに耐えられない。ちゃんと私のことを見つめてくれないなら、出ていってやると言って旦那を慌てさせる。気弱な旦那は大反省。
 二階堂かほりは、東京に行くべきか、残るべきかで悩むのだが、自分はおばあちゃんの死をきっかけに医者になりたかったんだ、ガンの研究をして多くの人を救いたかったんだという原点を思い出す。夢は捨てられない。だから東京に行こうと決意。
 患者さんたちに「東京の病院のほうが、やっぱりやりがいがあるんか?」と聞かれ「いいえ、この病院の仕事は今までで一番やりがいがありました。でも私にはアメリカでガンの研究をするという夢がある。一度は諦めた夢だけど、諦めたくないんです」と話す。驚いたことに二階堂に一番厳しく当たっていたイケメンの看護士君が応援してくれ、患者さんたちも応援してくれることに。その温かい言葉に、かほりは心を打たれる。
 そして丈太郎。田んぼを元に戻すには3年かかるか、5年かかるかと言われ、3年契約の地域おこし協力隊で良いんだろうかと考え込んでしまう。そして二階堂かほりの送別会の席で、「僕は地域おこし協力隊をやめる」「東京でも派遣を3年間、別の会社で3年間、そして協力隊で3年間」「それなりに一生懸命やってきたけれど、どうせ3年間という思いがどこかにあった」「だから、四万十の市民になって、田んぼを耕し、お年寄りの世話をして、いつか、日本中の人に四万十のお米を食べてもらうんだ。いや世界中の人に!」だから「みんなでパッケージのデザインとか、一緒にやっていこう」という。
 順一は後先を考えずに感激。今井春菜も目を潤ませていた。
 さて、東京に出ていったかほりは、教授に、「アナタの世話にはなりません」「教授の指示に逆らったら、医者として生きていけないと思っていたのは錯覚だった」「私の夢は奪わせません」「私の夢だから、どんなに苦しくとも自分で道を探します」と言い放つ。
 白い巨塔の時代と比べれば、教授の権限はずーと小さくなっているのだろうが、有力教授とトラブルを起こした研究員を好んで採用するところは少ない。いばらの道だ。
 案の定、どの研究機関に行っても色よい返事が貰えないかほりが沈んでいるところへ、丈太郎から電話がかかる。東京タワーの前のツリーの写真を送る約束じゃなかった? 今日でクリスマスは終わりなのに、約束したんだから撮りにいってよ!。
 仕方なく東京タワーに出向いたかほりを待っていたのは満開のヒマワリを抱えた丈太郎。このヒマワリ、二人で見にいったら根こそぎ抜かれていた。「誰かが植え替えてくれたんだろう」と能天気に言う丈太郎に、かほりは「子どもがぬいちゃったんだ」と言っていた物だ。「やっぱりそばの田中さんが植え替えてくれていたんだ」「会いたかった」と丈太郎。
 「私も会いたかった」そしてキス。目出度し目出度しというわけだ。


 いいんだけど、この二人、これからどうやって生きていくんだろう。
 特に丈太郎。無収入になって、どうする?
 仮に二人とも成功したら、四万十とアメリカの恋。どうやって続ける?
 それより、いつ友達モードから恋愛モードになったんだ?
 最後にカヌーに乗って回想していたのが説明?
 疑問がつきないが、そんなことは無用な詮索というものなのだろう。


 ところで、丈太郎を地域おこし協力隊に読んだ四万十市としては、これは成功だったのだろうか。能天気とはいえ、自力で農業に取り組もうという市民が一人増えた。二階堂かほりは世界に羽ばたいていってしまったが、二人に刺激を受けた若者たちが前向きになった。
 丈太郎と順一が取り組む田んぼの野焼きを村の人たちが手伝っていた。だから村も前向きに動き出している。
 だからディテールはハチャメチャだが「都市住民など地域外の人材を地域社会の新たな担い手として受け入れ、地域力の維持・強化を図る」(移住・交流推進機構HP)という地域おこし協力隊制度の趣旨からは、思わぬ成功と言える。
 また協力隊制度は、行政や地元の受け入れ態勢が問題だと言われているが、ボランティアで協力隊を支える順一、目立たないが人生相談までこなしている上司など、受け入れ側の努力も描かれている。(ただし、実際の有り様とは随分違うように思うが)。


 ちなみ『遅咲きのヒマワリ』は本年度の芸術祭・テレビドラマ部門で優秀賞を受賞した。
 おめでとう。
 本も少しは売れてくれるといいんだが・・。

(おわり)

○僕ら地域おこし協力隊
http://www.gakugei-pub.jp/gakugeiclub/chiikiokosi/index.htm
○出版記念イベント京都(13.1.11)
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1301mega/index.htm

椎川忍『地域に飛び出す公務員』(1)

椎川さんの地方への拘り


 昨年、『緑の分権改革』をお書き頂いた椎川さんが松江の今井書店から出された本。
 今井書店は「本の学校」を昔から支えてきた書店で、主催していた「大山緑陰シンポジウム」は一時期、出版界でも注目されていた。僕も参加していた「本の会」という関西の編集関係者が中心となっている会で、社長さんに講演に来ていただいたことがある。
 そういう地方で頑張っているところから出されたところに、椎川さんの拘りが色濃く出ていると思う。
 内容は『緑の分権改革』ではさらっと紹介されていた「公務員参加型の地域おこし」を書かれたもの。公務員に向けて「さあ、地域に飛び出そう!」と呼びかけている。

農山村の技術を生かす

 たくさん興味深い話が載っているが、考えさせられたのは「中小企業になれば中小企業対策の予算や融資が活用できますが、一人で黙々とものづくりを続けている人は、ほとんどなんの施策の支援も受けられない」という指摘だ。
 だから、そういう人たちに補助金を出せと言われているのではない。
 たとえば、和歌山県の山奥の小さな集落で箒をつくっているおばあちゃんがいたが、その方は農産物も、箒も、人様に売って儲けようという気持ちは少しもなかったという。でも、その箒がともかく素晴らしいというので、集落支援員の人が口説いて物産展などに出したところ飛ぶように売れるようになったという。
 売ることが目的とは限らないとしても、現金収入が生まれれば、技術の継承ができるかもしれない。
 椎川さんは、こういうことをもっと進めるためにネットを利用できないかと考えていたところ、驚いたことに、グーグルジャパンから転身した辻野晃一郎さんの会社、アレックスが、すでにやっているとある人から教えられたそうだ。
 アレックスは日本の優れた技術・デザインや伝統・文化に裏打ちされ、どこの国の人も手にとってみたくなるような製品を発掘し、世界の主要言語で使えるネットショッピングサイトを立ち上げている。
 HPを見てみると、「F1マシンのエンジン部品を製造したこともある会社がつくった高精度のサイコロ2個(2〜5万)」とか、「地面をけってバランス感覚を養うための木製二輪玩具(ペダルなし)〜秋田県の伝統工芸である「曲げ木」の技術を生かし、家具職人が丁寧に製作(4万)」とか、面白そうだが、とても手が出ない。
 「プリインストールされた音楽のみを聴くことができる缶バッジ型ポータブル音楽プレイヤー〜パッケージはアルバムのオリジナル・デザインを使用」なんて、そこまでやるかって感じ。
 それはともかく、ネットと物流の発達のおかげで、こういうものが販路を持てるようになるというのは、面白い。

続く



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地域に飛び出す公務員ハンドブック

緑の分権改革: あるものを生かす地域力創造

ギア:バージョン2


 「言葉を全く使わず五感を刺激することで楽しむ日本初の公演」という触れ込みで4月から始まったギアのバージョン2を見てきた。
 会場はアートコンプレックス1928。1928年に武田五一氏の設計により建てられた大阪毎日新聞社京都支局ビルを建築家・若林広幸が買取りコンバージョンしたビルだ。正面から入って狭い階段を上っていく。それだけで秘密の劇場にいくようなワクワク感がある。
 客席はわずか100席。舞台がとても近い。


 ストーリーは、廃棄されたおもちゃ工場に取り残された人間化したロボット「ロボロイド」と、製造されたおもちゃの女の子がふれ合い、どういうわけか人間の心を持つようになるという内容。
 ただ言葉がないから細かいところは分からない。
 大ざっぱなストーリー展開にあわせ、あるいは唐突にパフォーマーが、マイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリングを披露してくれる。
 お客さんの入りは半分ほど。はじまってしばらくして子どもが泣き出してしまったが、途中からは見入っていた。その子をはじめ、小さな子ども連れが多かった。


 名取造船所跡地のクリエイティブセンター大阪を訪ねたとき、ブラックチェンバーという部屋でギアの練習をしていたが覗いてみたら面白かったという話を聞いて、それではということで、バージョン1を見に行った。
 そのときイヤイヤついてきた嫁さんが気に入ってしまって、バージョン2も見に来たというわけ。一つの役を数人で分担しているが、マイムとドールの人は前回と同じだった。
 マイムの岡村渉さんはとても良い。マジックは前回の山下翔吾さんのほうがロボロイドらしかった。ブレイクダンスは前回は印象に残らなかったが、今回はいけていた。


 プロデューサーは小原啓渡さん。
 トライアウト2010年にはじまり、2012年4月から京都でロングラン公演。7月末までがバージョン1、9月から来年2月までバージョン2。すでに公演回数は200回を超え、観客動員ももうすぐ1万人とか。
 ただ2月11日には改訂のためにバージョン2は千秋楽を迎える。バージョン3の詳しい情報は公開されていないが、是非、続いて欲しい。また見に行きたい。

(おわり)

○ギア
http://www.gear.ac/

遅咲きのヒマワリ(9) 僕ら地域おこし協力隊

 いよいよ9回目。今回を含めあと2回なので、猛スピードでオチに向かって走り出した。
 まず松本弘樹君。先回の親父さんの病気で目覚め、エースだった自分の過去の呪縛から逃れ出て丈太郎と順一に「僕は今から始まるんだ」と啖呵を切る。
 順一は島田さよりさんを襲いかけてしまい「もう、二人だけで合わない方がいいね」と言われたのだが、さよりは「古民家の掃除のボランティアは続けたい」と言い、春菜が手伝ってくれることになって、目出度く掃除再開。
 一方、森下彩花は丈太郎を連れて、恋人の墓に。過去の苦しい恋を語り、丈太郎の思いに終止符を打つ。
 そして丈太郎は、二階堂に「仕事を見つけてエライじゃないか」といったところ、「見つけたんじゃない、目の前にあったのだ」と言われたのが効いたのか、耕作放棄地をみて「僕は農業をやるんだ。米を作るぞ!」と思いたつ。そして順一の店にかけてゆき履歴書書きに嫌気がさしていた順一を巻き込んで「やるべきことが見つかった!」と有頂天になる。
 問題は二階堂さん。「東京には戻りません」と患者さんに断言した途端、東京の大学教授から戻ってくるように指示される。部下がセクハラ事件を起こしスタッフに穴が空いたから戻ってこいというのだ。その身勝手さに腹が立ってしょうがない。でも、研究という夢も捨てがたい。しっかりした仕事をもち、患者さんに頼りにされて、最初に道が見えてきた彼女が、動揺する。「お前にいて欲しい」という丈太郎。「いなくなったら、人口がへっちまうから・・・」。
 次週予告では「二人の愛の行方は?」なんてテロップが出ていたが、二人っていったい誰だ? さっきのは愛の告白? 「二人で人口を増やそう!」と言ったらどうだと突っ込みたくなる。


 ところで、次週には丈太郎が地域おこし協力隊をやめて、農業一筋で定住すると宣言するようだ。
 これは本当は無茶苦茶。地域おこし協力隊の狙いは、3年の任期のうちになるべく起業・定住への道筋をつけることだから、就農への支援も組み込まれているし、協力隊の業務をこなしながら休日に農業をすれば、農業従事年間150日という農家認定要件も満たせる。だから就農を目ざして頑張るなら地域おこし協力隊をやめる手はない。

 実際、『僕ら地域おこし協力隊』でも、そのように就農を目ざして頑張っている人を紹介している。
 ドラマチックにするため辞めると言わせるのだろうが、誤解を生みかねない。


 だが、そんな細かいことはともかく、「人に来てもらいたいなら、自活できることを僕たちが示さないと」という丈太郎の言葉は良い。
 もちろん甘いものじゃないだろう。だが地域おこし協力隊のほかにも、7年間で1050万円の支援がある青年就農給付金など、充実した制度もある。
 斉藤俊幸さんは「東京でフリーターをしているよりも、地方で100万、200万稼ぐほうが、豊かになれる」と言っているが、そんなことを考えても良いのかもしれない(『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』に出てくる『地域おこし協力隊』って何だ)。

 それにしても気になるのは古民家だ。仲良く掃除をするのは良いが、どう活用するのだろう。せっかく民泊ができる古民家があるなら、丈太郎が育てたお米と新鮮野菜も組み合わせ、何かやってオチをつけてほしい。

(おわり)


○僕ら地域おこし協力隊
http://www.gakugei-pub.jp/gakugeiclub/chiikiokosi/index.htm
○出版記念イベント京都(13.11.11)
http://www.gakugei-pub.jp/cho_eve/1301mega/index.htm